連載:キズナ〜選手と大切な人との物語〜

ドラフト注目右腕の笠島尚樹と松村力 入学前から勃発していたエース争い

沢井史

静と動、対照的な2人の間にできた微妙な距離感

笠島は昨夏の甲子園でも、主戦として全3試合に先発登板した 【写真は共同】

 入学すると、まずは体力づくりのためにランメニューやトレーニングをこなすのが敦賀気比の新入生の“恒例行事”だ。だが、まずそこで出鼻をくじかれたのは笠島だった。もともと走るメニューが好きではなかった笠島の前で、松村は面白いようにランメニューをこなしていった。笠島は「松村は足がすごく速かったんです。短距離も長距離も。自分はフィジカル面では松村にはかなわないと思っていたので、違う部分で勝負しようと思っていました」と当時を苦笑いしながら振り返った。

 入学して2週間後、共にブルペンに入ることになるのだが、ランメニューで差をつけられたライバルよりもアピールしようと「かなり力を入れて投げました」と振り返る。「自分は体が小さいので、体の大きい2人には負けたくなかったので…」と負けん気をむき出しにしていた。

 実戦デビューしたのは、2人共ほぼ同時期だった。4月下旬にレギュラークラスで形成されたAチームに2人が帯同し、練習試合の2戦目で笠島が先発、松村は2番手で投げた。

 マウンド上では表情を崩すことなく淡々と投げる笠島に対し、松村はいつも疑問を持っていた。「感情があるんかなと思うほど表情をほとんど出さないので、緊張したことあるんかなって」。それに対し、笠島は「緊張はする方です」と即答した上でこう明かす。

「自分、緊張していることを周りに言うのがイヤなんです。周りに言っても何も解決しないし、自分で何とかするしかないので」。対する松村は、マウンドでは時には感情をあらわにすることがあり、ピンチを抑えると「たまに吠えることがあるんですよ」と笠島。2人でいるとわりと話すタイプだったと松村は言うが、感情は自身の中に押し込め、ポーカーフェイスを貫く。

 “静”と“動”と言い表してもおかしくない全く対照的なキャラクターの2人が、この2年半で実は口を聞かない時期があった。

(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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