連載:岡田メソッドの神髄

岡田武史が説く日本と海外の違い 日本代表でも光景は何十年も変わってない

飯尾篤史

育成年代からの根本的な指導改革

ベネズエラ戦は前半で4失点。岡田氏の目には以前と変わらない日本代表の姿が映った 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――監督の指示待ち、どこか他人事のような。

 そのあとだったかな、森山(佳郎/当時U-17日本代表監督)にFC今治のコーチ研修に来てもらって、(19年10月の)U-17ワールドカップ(W杯)の映像を見せてもらったんだよ。その中に、準決勝のブラジル対フランスがあったんだけど、フランスが地元のブラジルを圧倒して前半15分で2-0とリードした。ブラジルはなんとかハーフタイムを迎えるんだけど、そこで控えの選手も混じって選手全員がグラウンドの中でウワーッと言い合いを始めたんだ。そこには監督もコーチもいないよ。選手だけ。そうしたら後半に入って逆転しちゃった。

 これなんだよ。日本の場合、淡々としていて、どこか冷めていて、「何を修正してくれるんだろう」という感じでロッカールームに戻っていく。

 南米の人が言うには、W杯のような世界大会では、ベスト16から先は“殺し合い”だと。U-17W杯で日本はベストチームのひとつだった。でも、日本はベスト16からの戦い方を知らなかった、というようなことを向こうのメディアに書かれたらしいんだ。そうなんだよ。向こうの選手たちは勝つために何をすべきかと、一人ひとりが真剣に考えている。

 ちなみにブラジルにはメソッドのようなものはないかもしれないけど、子どものときから厳しい生存競争がある。自分で考えてプレーしないと生き残っていけないという環境がある。

 日本人は調和が取れていて素晴らしい、なんてよく言われるけど、そうじゃないところもあると俺は思っている。例えば、今のコロナ禍において、「日本人はパニックにならない」と言われるけど、違うんだよ。お上が何とかしてくれると思って、自分事として考えていないだけというところもある。これは、お上が素晴らしいときはいい。でも、お上がダメだったら全滅しちゃうんだ。第2次世界大戦のときから日本人の気質は何も変わっていないけど、スポーツから社会を変えられないかものかと、亡くなった平尾誠二(ラグビー元日本代表選手、元日本代表監督)といつも話し合っていた。

 そういう意味で、まずはサッカーで、ベスト16より上に勝ち進んでいくためには、自立して、主体的にプレーできる選手、勝つためにどうすればいいのか自分で考えられる選手が出てこないといけないんじゃないか、とずっと考えてきた。


――そんなときに、ジョアン・ビラの話を聞いて、ピンとくるものがあったんですね。

 そう。FC今治を作ったのも、そのため。トップチームの監督をやっているだけでは解決できない問題だから。育成年代から長く指導しないと解決できないんじゃないかと。もちろん、この考え方や「岡田メソッド」が正しいかどうかは、やってみないと分からない。でも、俺は正しいと思って4年くらい試行錯誤をしながらやってきて、まずまずの手応えをつかんだので、本にまとめて出版しようという考えになったんだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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