高校生たちへ、大迫・桐生・寺田が団結 オンラインで議論「陸上で新しい形作る」
高校生に対して現役アスリートは何ができるのか、を考えるため、マラソンの大迫(左上)、短距離の桐生(右上)、ハードルの寺田(中央下)が集まった 【写真提供:株式会社アミューズ】
多くの高校生にとって最大の舞台である全国高校総体(インターハイ)が中止となり、目標を失った高校生たち。彼らに対して現役アスリートは何ができるのか、3人が約1時間にわたって議論を繰り広げた。自分たちの経験をもとに、今後は現役の学生たちの意見も聞きながら、陸上界にとって新たな試みとなるプロジェクトを進めていく予定だ。
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五輪延期も、桐生「あまり影響はない」
「ママアスリート」としても注目される寺田。「陸上界で新しい形を作っていけるのでは」とプロジェクトに期待を寄せる 【写真は共同】
桐生 僕としてはあまり変わらなかったというか、年齢的にも24(歳)から25(歳)になる年ですし、練習がさらに1年間延びるんだったら僕個人としてはあまり影響はないかなと思っています。
――実際に延期の発表はどこで聞いていましたか?
桐生 ネットニュースで知りました。多分、家にいたと思うんですが、その時は完全にグラウンドも使えなかったので、家で聞いていたと思います。
――大きな衝撃というよりは「1年延びるんだ」という感じでしたか?
桐生 それもありましたね。どちらかと言うと「延期になるんじゃないか」という雰囲気もあったじゃないですか、完全に決まる前に。なので(今年開催されるか)50対50で考えていたので、「延期されるんじゃないか」という気持ちはありました。そのモヤモヤが早めに分かったので、良かった部分もありましたね。
――最近の練習環境について聞きたいんですが、以前とは変わりましたか?
桐生 直近で言うと、最近はナショナルトレーニングセンターが使えるようになったので、オールウェザーで走れるようになりました。3月から5月まではグラウンドが使えるという、当たり前の環境がなくなったので、家の周りを走ったりしていました。走るのは深夜か早朝と決めていたんですが、マスクをつけながら、絶対に人と会わないようにしていました。
――マラソンランナーなどはロードを走ることになじみがあると思うんですが、桐生選手が走る時はダッシュでしたか?
桐生 もちろんダッシュです。なので人が見ていると「変な目で見られるんじゃないか」と思って、申し訳なくなるんですよ(笑)。不審者に見られるかもしれないじゃないですか。街中で思いっきりダッシュしている人なんかいないので。
――逆に、この時期だからこそ、何かできるようになったことはありますか?
桐生 時間を有意義に使うことができました。ウエートトレーニングの用具を買ったので、家でウエートをして、そこから走りに行くまでの移動時間がなくなりました。その結果、自由な時間が増えたと思います。
――続いて大迫選手に聞きたいんですが、現在は活動拠点のアメリカの現状はいかがですか?
大迫 僕が住んでいるオレゴン州のポートランドは郊外なんですが、意外と平和な感じで生活できていますね。こっちにいるときは、そもそもあまり外出しないので、今と普段の練習は変わらないかなと思っています。長距離は外で走ることで全てのトレーニングができるので、そこは長距離の良いところだと思います。
――現在、市民ランナー界ではマスクなどの顔を覆うものをつけて走ることが主流になっているんですが、大迫選手はどうしていますか?
大迫 さすがに全ての距離でマスクをして走ると死んでしまうので(笑)、人とすれ違う時やすれ違ってから10〜20メートルのところまではしっかりマスクをつけるようにしています。そして、誰もいないところでは外すようにしていますね。
――3月上旬に東京マラソンがありました。五輪延期のニュースを聞いたのは日本とアメリカのどちらでしたか?
大迫 多分日本だったと思います。3月26日ごろにアメリカに帰ってきたので、ギリギリ帰る前だったかと思います。
――ニュースを聞いた時の心境はいかがでしたか?
大迫 最初は少し残念だったんですが、桐生選手が言ったように、1年間余分に準備する期間が与えられたと考えるとすごくプラスになったというか、「もう1年しっかり準備して、いろんな選手に勝てるようにやっていこう」と思うようになりました。
――寺田選手、去年100メートルハードルで日本新記録を出されて、絶好調の状態でオリンピックイヤーを迎えられるんじゃないかと。延期を聞いたときは率直にどう感じましたか?
寺田 私は2人に比べて年老いているので(笑)。皆さん心配してくれるんですが、(現役に復帰する)その前は6年間陸上をやっていなかったので、期間が空くことに関しては意外と耐性があります。なので私も2人と一緒で、1年間、自分の技術を上げられる点はプラスに考えています。去年は本当に順調で、自分が考えていた通りに進めることができたのですが、そこで一気に時が流れてしまって、細かい部分などを見過ごしていることが多かったので、この自粛期間で見直せたのはすごく良かったと思います。
――寺田選手は「ママアスリート」としても注目を集められていますが、お子さんと家で過ごす時間も増えたのではないですか?
寺田 すごく増えました。保育園がお休みになってしまったので、2カ月近く、娘とずっと一緒に過ごしていましたね。もちろん私も人間なのでイラっとすることはありますし、怒ることもあるんですが、今までなかなか娘と過ごす時間がなかったので、ずっと過ごす中でいろんな成長も見られましたし、これまで付き合えなかった自転車の練習や公園の散歩も一緒にできたので、それは本当に良かったなと思います。
インターハイの中止、高校生と一緒に考えたい
3人で「日本記録を持っていないのは僕だけですね」と語り笑わせた桐生。日本人で初めて9秒台を出した短距離界のトップランナーは、高校生に何を伝えたいのか 【写真は共同】
桐生 新型コロナウイルスの影響で、インターハイという1つの目標がなくなってしまった高校生がたくさんいると思います。インターハイ予選とか、いろいろな大会を目標にしてきた人が、何をすればいいのか分からない状況になっており、僕ら選手にもいろんな質問が来ています。57年間のインターハイの歴史の中で、1人も(中止という事態を)経験したことがなかったので、どう対処すればいいかを先輩として言える人がいません。そうした時に、大迫さんや寺田さんであったり、僕であったりが何をしようかといった時、やっぱり話し合って、高校生と一緒に考えられることをしていこうと。なので、このプロジェクトというのは、僕ら3人だけでは絶対にできないと思うので、高校生と一緒に盛り上げていければいいと思ってます。
――高校生のみんなと集まって、「一緒に何かやろうよ!」という形式になりそうですね。
桐生 そうですね。3人がバッと言ったところで、高校生が本当にそれをやりたいのかが分からない部分も絶対にあるじゃないですか。僕たちと高校生ではものごとの感じ方が違う部分もあるので、そうしたズレをなくすように、高校生と一緒にプロジェクトをやっていきたいです。
大迫 他種目でこれだけ集まるというのもなかなかないと思っていて、だからこそいろんな意見が出てくるのでは。また、長距離、短距離、ハードルとそれぞれの種目だけで(プロジェクトを)作るよりも、濃い内容になるのではと思っています。
寺田 桐生くんは短距離、私はハードル、大迫くんはマラソンで種目が全然違うんですが、実は違う種目での交流ってあまりないんですよね。世界陸上やオリンピックの舞台でちょっと話すくらいです。こうして3人が集まって高校生も一緒になって何か作れるのは、陸上界で新しい形を作っていけるのではと思います。みんなで楽しんでやっていきたいです。