
第8回

W杯敗退が決定した瞬間、長谷部はしっかり前を見据え、誰よりも早く歩き出した。なぜなのか?【高須力】
ここに一枚の写真がある。
ワールドカップのパラグアイ戦、パラグアイの最後のキッカーがPKを決めた直後の写真。
決められた瞬間だから、「負け」が確定した瞬間である。
チームメイトが横並びに写っている。隣には本田(圭佑)が拝むように手のひらを合わせたまま、地面に突っ伏している。長友(佑都)がしわくちゃに顔をゆがめ、その横ではケンゴさん(中村憲剛)が腰に両手をまわして呆然としていた。
だが、このなかでひとりだけ表情が違う人物がいた。それが僕だった。とある記者さんは、
「負けた瞬間なのにすっと立ち上がって、GKの方に歩いています。しかもちょっと顔がすっきりしている。これはキャプテンだったから切り替えられたのですか? それともある程度負けを覚悟していたのですか?」
まったく覚えていないし、正直驚いた。確かに写真のなかで僕はいち早く立ち上がり、すでに前へ一歩踏み出していた。顔を見ると、とても試合直後の表情には見えず、悔しさや驚きといった感情の変化をまったく感じ取れないうえに、少し微笑んでいるようにも見える。
続けて、記者の方は僕にこう聞いてきた。
「PK戦で負けたら、他の選手のように悔しさのあまり呆然とするのが普通だと思う。なぜ長谷部さんは、こんなにもすぐに切り替えられたのか?」
分からない。本当に分からない。でも当然ながら「エイジ(川島永嗣)、止めてくれ」と祈るようにして心のなかで唱えていた。
分からないながらも、当時のことを自問してみた。
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