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心を整える。
『意識して心を鎮める時間を作る』
南アW杯期間中、僕は何もやらなかった

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第1回

2010年から約8年にわたり日本代表キャプテンを務めた長谷部誠。一人の選手として、そしてキャプテンとして大切にしてきたこととは
2010年から約8年にわたり日本代表キャプテンを務めた長谷部誠。一人の選手として、そしてキャプテンとして大切にしてきたこととは【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2010年の南アフリカ・ワールドカップ期間中、日本代表が拠点にしていたジョージのホテルには、選手のリフレッシュのために、いろいろな小道具が用意されていた。卓球、ダーツ、テレビゲーム……。また、ホテルはゴルフ場の施設内にあったので、もちろんゴルフもできる。このようなサッカーから離れた遊びが、選手たちの気分転換に一役買っていた。けれど、僕は何もやらなかった。


 それには理由があった。


 一日の最後に必ず30分間、心を鎮める時間を作りたかったのだ。


 大会期間中はチームとして行動するので、練習やミーティングのためにプライベートの時間が限られている日が多かった。みんなとわいわい騒ぐのは楽しいけれど、時間があまりない日に遊びに参加してしまうと、「心を鎮める30分」を作れない。だから僕は、チームとしての行動が終わると、すぐに自室に戻るようにしていた。年下のチームメイトからは「ハセさん、付き合い悪いっすよ」と冗談交じりに言われたけれど、この時間だけは譲れなかった。

 部屋に戻る。電気をつけたままにして、ベッドに横になる。音楽もテレビも消す。そして、目を開けたまま、天井を見つめるようにして、息を整えながら全身の力を抜いていく。


 壁の模様を見て、ひたすらボ〜ッとしていてもいいし、頭に浮かんできたことについて思考を巡らせてもいい。大事なのはザワザワとした心を少しずつ鎮静化していくことだった。練習と緊張でざらついた心をメンテナンスしてあげるのだ。


 ベッドに横になると寝てしまうのでは? と思う方もいるかもしれないけれど、僕は「寝よう」と自分で思わない限り、眠ることはまずない。大人になってから電気やテレビをつけたまま寝てしまったことはないし、昼寝のときには必ずカーテンを閉めきって真っ暗にするほどだ。

日本代表キャプテンを務めた2010年W杯では、初戦から2試合連続の途中交代となった
日本代表キャプテンを務めた2010年W杯では、初戦から2試合連続の途中交代となった【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ワールドカップでは、開幕直前にゲームキャプテンを任され、自分は何をすべきなのか、正直戸惑った。当時26歳でメンバーのなかで中間くらいの年齢の人間に、はたしてゲームキャプテンが務まるものなのか。どう振舞うべきなのか。


 自分がゲームキャプテンになったことで、チームの雰囲気が悪くなるようなことは絶対に嫌だった。まわりに一挙手一投足、見られているというくらいの心構えで、ゲームキャプテンという役目を全うしようと思っていた。


 しかし、僕は初戦のカメルーン戦と第2戦のオランダ戦では、後半途中で交代を命じられてしまった。キャプテンマークを巻いた人間が、試合途中でピッチの外に出るなんて自分のなかでは絶対にありえない。不甲斐ないプレーしかできない自分が本当に情けなかった。


 迷い、葛藤、悔しさ。いろいろな思いが胸に去来し、大会期間中は気持ち的にギリギリのところで戦っていた。そんななか、唯一、心が休まるのは自分の部屋だけだった。


 だからこそ、心を鎮める30分間が僕には欠かせなかった。

長谷部誠

1984年1月18日、静岡県出身。3歳でサッカーを始め、青島東小のスポーツ少年団、青島中サッカー部を経て名門・藤枝東高校入学。2001年の全国総体準優勝。2002年浦和レッズ加入。2008年にドイツ・ブンデスリーガへ移籍。翌年、ヴォルフスブルクにてリーグ優勝を経験。現在はアイントラハト・フランクフルトの主軸として活躍している。2018年にはドイツカップ優勝を達成。ワールドカップでは、南アフリカ、ブラジル、ロシアの3大会連続でキャプテンを務めた。日本代表のキャップ数は114。

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