大迫傑が将来の陸上界に描く青写真「日本人はまだまだ速くなれる」
大迫が東京五輪、構想中の育成プロジェクトについて思いを語る 【水上俊介】
東京五輪での戦い方は?
東京マラソンのレース後、インタビューで感極まり涙を流した大迫。さまざまな思いを背負って走る大迫が垣間見えた 【写真は共同】
それはうれしいことだし、メダルのチャンスがないとは思っていません。いかに自分らしいレースができるか。能力を最大限に発揮して、チャンスを拾えるレースを展開することが重要になってくると思います。
──中本健太郎選手(安川電機)はトップ集団についていかない戦略で、ロンドン五輪で6位、モスクワ世界選手権で5位に食い込んでいます。大迫選手もボストン、シカゴ、東京マラソンというメジャーレースで上位に入っていますが、これまでのように“順位”を意識したレース運びをすることで、メダルには十分近づけると思います。
そうですね。中本選手の走りを見て、そう決めたわけではありませんが、トップ・オブ・トップの選手と真っ向勝負をするのは現実的ではないと思います。
──2時間1分39秒の世界記録を持つエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)は、非公認レースでサブ2(2時間切り)を達成しました。大迫選手も「いつかは達成したい」という思いはありますか?
それもトラックと一緒(前編を参照)で、僕の力には限界があると思います。だからこそ、スクールや育成プロジェクトを立ち上げて、僕ができなかったことを後輩たちに託したい。僕が苦労して到達したところまで簡単に行けるようになれば、その先に進める選手が必ず出てきます。その可能性にチャレンジしたいです。だから、これから続く選手たちのためにも、まずは自分の限界をもっと超えていきたいし、同時に育成プロジェクトも進めていきたいと考えています。
“新しいピラミッド”を作る必要性
世界を知る大迫の提言は正鵠を射る。彼の一挙手一投足から目を離せない 【水上俊介】
ケニアにアカデミーのようなものを設立する予定です。対象は日本、もしくはアジアの高校生、大学生、若手選手。僕がここまで強くなるだけで、すごく時間がかかったし、日本人がアフリカ系の選手と対等に勝負していくのは並大抵のことではありません。僕が日本と米国で学んだこととケニアの環境を生かして、育成していきたいと考えています。
──ナイキ・オレゴン・プロジェクトの日本版というイメージでしょうか?
コンセプトは一緒だと思いますが、もっと広い視野で育成していきたいと思っています。
──日本の陸上界には“実業団”という独自のシステムがあります。実業団駅伝があるからこそ、マラソンの選手層は厚くなりましたが、記録的に突き抜ける選手が出て来ません。
実業団は企業名を広めて、ブランド力を高めるために駅伝をやっているところが大半です。大学も駅伝の取り組みが中心です。企業や大学側は駅伝での活躍を求めているので、たとえ指導者が「世界で戦うためにこんなことをしている」と言っても説得力が薄いのが実情です。また、チームが目指すものと選手が目指すものがイコールにならないと、限界が生じてしまいます。僕は“新しいピラミッド”を作る必要性を感じていて、そのための第一歩として、ケニアはすごく良い場所です。
──実業団を頂点とする既存のピラミッドの、さらに上層の部分を作っていくというイメージですか?
違います。実業団を頂点とする既存のピラミッドとは別のピラミッドが最終的にできたらいいなと思っています。実業団に所属する駅伝の選手が、こちらのピラミッドに来てもいいし、その逆もあるかもしれません。
──選手は実業団チームと大迫選手が立ち上げるプロジェクトの間を、自由に行き来できるというわけですね。
はい。戻れるところがあるのはとても大事なことです。あと教育として考えたとき、日本の育成システムは選択肢が少ないと思います。交換留学みたいな形でケニアに行くとか、高校・大学時代に海外を拠点にするのも将来的に生きてくるはずです。選手に新たな選択肢を作ってあげたいですね。
──こういう発想は、世界を知る大迫選手だからこそできることだと思います。
僕自身のキャリアを振り返ってみても、選択肢が非常に少なかった。後輩にそういう思いをさせたくないという思いもあります。
──大迫選手はマラソン大会を創設する意向を表明しています。決まっていることがあれば教えてください。
大会については僕が契約しているアミューズや、所属しているナイキにも協力してもらい、少しずつ進めている状況です。“日本と世界の差を縮めること”が大会のコンセプトで、42.195キロのレースを行う予定ですが、詳細についてはまだ決まっていません。
──キプチョゲ選手が2時間切りを目指した「Breaking2」「INEOS 1:59 Challenge」のような非公認レースになるのでしょうか?
詳細はまだ言えませんが、そういうレースになると思います。競技の見せ方にもこだわっていきたいです。選手ファーストでありながら、野球やサッカーのように観客も盛り上がって、見ていて楽しいというか、ワクワクするようなイベントにしたいと思っています。