連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

富澤慎が疾駆する江の島沖のメダルレース 大海原に帆を立てるセーリングの壮大感

C-NAPS編集部

セーリングRS:X級(ウィンドサーフィン)で4大会連続の五輪出場を決めた富澤慎に、競技の魅力や五輪への思いを聞いた 【写真:C-NAPS編集部】

 2020年の東京五輪では、33競技339種目の開催が予定されている。競技場、アリーナ、公道などアスリートが熱い戦いを繰り広げる会場は競技によってさまざまだが、大海原を舞台にした「もっとも陸地から離れた場所」で行われる競技がある。それがセーリングだ。まさに大自然の中で行われる競技だが、中でも唯一のウィンドサーフィン種目であるRS:X級で、4大会連続となる五輪出場を決めた富澤慎(トヨタ自動車東日本)に注目が集まっている。

 日焼けした肌に、長身でスラリとした引き締まった体型。海がよく似合うこの男が期待されている理由は、セーリングの会場が江の島ヨットハーバーであること。「大会が行われる場所の特徴を知ることが非常に大切」と自身が語るように、学生時代から慣れ親しんだ地が五輪会場であることは、富澤にとってこの上ないアドバンテージだ。果たして東京五輪本番では上位10艇で順位を争う「メダルレース」に進出することはできるのか。富澤にとって「ホームの海」である江の島沖で開催される五輪への意気込みと競技の魅力について語ってもらった。

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大海原を舞台に行われる「海上のマラソン」

富澤が専門とするRS:X級は唯一のウィンドサーフィンの種目。ボードに帆を立てて縦横無尽に海上を駆け巡る 【Getty Images】

 セーリングをご存じでない方は、どんな競技かをイメージしづらいと思います。簡単に言うと「海上のマラソン」ですね。海上の風下に設置されたスタート地点からヨーイドンで一斉に選手が出発し、コース上に設置されたブイ(マーク)を決められた順番に回り、風上にあるゴールまでの着順を競います。決められたコースを走り順位を競う点では、マラソンと同じですね。

 ただ、「低得点制」という採点方式がセーリング独自のルールだと言えます。セーリングは着順によって1位は1点、10位は10点が加算され、複数日にかけて10レース以上行われた合計得点が低いほど総合順位で上位になります。そして、その総合点で上位10艇に入ると、「メダルレース」と呼ばれる他の競技でいうところの決勝戦に当たるレースに出場できる点も見どころですね。

 セーリングは男女合わせて計10種目ありますが、僕はRS:X級に属しています。RS:X級の大きな特徴としては、唯一のウィンドサーフィンの種目であること。ウィンドサーフィンは、50〜60年前にサーフボードにヨットの帆を付けたら面白いんじゃないかという発想から生まれたそうです。ちなみにセーリングの他の種目はすべてヨットで、種目によって艇種や規格、一人乗り・二人乗りなどの人数の違いがあります。

真剣な表情でセーリングについて説明する富澤だが、観戦を楽しむためには「まずはやってみて面白さを体験することが一番」とも語る 【写真:C-NAPS編集部】

 ウィンドサーフィンの帆の部分には、ブームという横棒が付いています。ブームを巧みに操作して帆で風をたくさん受けることで加速するんです。ただ、風が強ければスピードが出ますが、強すぎるとコントロールがしにくい一面もあります。一方で風が弱い場合は、帆を自分であおいで風を起こして推進力を与える必要があるんです。イメージとしてはうちわですね。セーリングにおける理想の風速は8メートル。風が強すぎても弱すぎてもダメで、適度に帆がしなるくらいの風を受けることで楽にスピードを出せます。

 沖合では常に風も波も変化しているため、帆の勢いをうまくコントロールするには情報や知識、経験が重要になります。そのため、レース期間中の風速や風向きなどをインターネットで逐一チェックしたり、天気図を見たり、目視で風を読んだりするなど常に情報収集が欠かせません。五輪では日本のセーリングチームにも気象予報士がついているので、雲や潮の動きについていろんな角度から調べてデータを出してくれます。

 セーリングは大海原で行う競技なので、大会が行われる場所の潮の流れや風の吹き方などの特徴を知ることも非常に重要です。僕の場合は、大会の1カ月前からその場所で合宿し、実際にセーリングをして波や風向きなどの特徴や傾向を体感するなど、下調べをしたうえでレースに臨むようにしています。自然を味方につけることができるか否かが、結果を残すうえでも大きな鍵を握ると思います。

 五輪観戦においてセーリングを楽しむためには、本番前に実際に海上で風を受けてみるのが一番だと思います。風を体感すること、言葉ではなかなか伝えられない楽しさや感覚を味わうことができるはずです。ウィンドサーフィンであれば、湘南の海岸線に来れば誰でも気軽に体験できます。特に疲れている方は、自然と触れることでリラックスできるのでおすすめです。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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