周東は東京五輪でも切り札となり得るか 走だけじゃない攻守兼備の侍へ殻を破れ!

田尻耕太郎

「僕、グラシアルになりたいんですよね」

走だけじゃなく攻・守もそろった選手を目指し、今年1月の自主トレではチームの先輩である今宮(左)に弟子入りした 【写真は共同】

 とはいえロースターが狭まる東京五輪において、周東がメンバー当確ランプを灯すかはぎりぎりまで分からない。

 また、周東自身も足という武器一本だけで、この先長くプロ野球選手を続けられるかといえば厳しい。年齢を重ねれば走力から衰えていくのが常だ。

「僕、グラシアルになりたいんですよね」

 周東が理想形として掲げたのは、昨年の日本シリーズで3本塁打を放ちMVPに輝いたキューバ人の助っ人の名前だった。

「僕と正反対じゃないですか。長打力もあって、勝負強くて、率も残して、守備だって内野も外野も守れる。選手としてホントすばらしいですよね。ああいう選手がチームにいれば、監督だって使いたくなると思いますし、安心感がある。たしかに、代走として試合に出られることはうれしいですけど、そこに満足せず、もっと上を目指していきたいと思います」

 今年1月の自主トレは、チームの先輩である今宮健太に弟子入りして行った。選手層が厚く、どのポジションにもハイレベルな選手がそろうホークスの中で、冷静な目で見て最もレギュラー獲りに近いのが二塁だ。昨季は内野よりも外野を守る機会が多かったが、登録はもともと内野手だ。名手と呼ばれる先輩の手ほどきを受けながら守備力向上に励んだ。また、「秋のキャンプに行けず、圧倒的に練習量が少なかった」と毎日3、4時間はバットを振り込んだ。

 打って、守れる周東になれば、鬼に金棒である。チームとしても「1番二塁」でスタメン定着して、一定以上の打撃と守備をクリアしてくれれば、かなり大きな戦力になることは間違いない。

コーチから苦言の数々も期待の裏返し

春季キャンプではコーチから厳しい評価を受けた周東だったが、2月23日のオープン戦初戦では5打数3安打3打点の大暴れ 【写真は共同】

 果たして期待感いっぱいで臨んだ今春の宮崎キャンプ。しかし、どうしたのか。周東の存在感がイマイチなのだ。

 内野のレギュラーを狙いたいというので、本多雄一内野守備走塁コーチに話を聞くとそれに同調し、厳しい言葉が次々に飛び出してきた。

「キャンプを見ていて、正直、昨年からの変化が感じられない。内野のレギュラー獲りをというから特守を連日入れても同じようにバテるし、体つきも変わっていない。体力や表情、動き。ずっと一緒にやっているから変化があれば気づくものです。口ではレギュラーを獲ると言っているけど、言動が伴っているとは言えないと思います」

 侍ジャパンにまで上り詰めた自分自身に対して甘んじているわけではないはずだ。しかし、ずっと近くにいる本多コーチの言葉だからこそ重たい。

 たとえば、ホークスの名物でもある声でも、松田や川島慶三ばかりが目立っている。周東だって黙って立っているわけではないが、周囲の視線を集めるほどの力感はなかった。

 苦言は、期待の裏返しだ。何も言われなくなる方がつらい。

 2月23日、ホークスのオープン戦初戦。周東は「1番二塁」でスタメン出場すると、第1打席で三塁打を放ち、両チーム無得点で迎えた第2打席では右翼席へ3ラン本塁打を叩き込んだ。3打席目にはシングルヒットも放ち、5打数3安打3打点でサイクル一歩手前の大暴れを演じた。

 ただ、試合後の周東は自分に言い聞かせるようにこう話した。

「1試合よかっただけ。まだまだです。浮ついた気持ちにならず、気を引き締めてやりたい」

 現状ではレギュラー最右翼とも言えないし、東京五輪出場も当落線上だ。周東は自らの信念を行動に移して、殻を突き破っていかなければならない。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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