中山由起枝が思いを込めて引くトリガー 銃口に反映される“クレー射撃の心理面”
5大会目となる五輪出場を決めた中山に、クレー射撃の競技性や観戦ポイントについて聞いた 【写真:C-NAPS編集部】
1997年に所属会社にスカウトされ、高校卒業後のイタリア射撃留学を機に始まった中山のサクセスストーリーだが、その実績とは裏腹に常に順風満帆だったわけではなかった。東京五輪の切符もまさにギリギリの死闘を制して勝ち獲ったものであり、「世界で勝たなければ出場枠は獲れない」という言葉には常に一線級をひた走ってきた彼女ゆえの重みがあった。今回はそんな中山にクレー射撃を観戦する際のポイントや、競技にかける思いを聞いた。23年間にわたり眺めてきた、その銃口の先に見える景色とは。
※リンク先は外部サイトの場合があります
イタリアで出会って以来、“一度も浮気しなかった相棒”
メンタルが重要な鍵を握るクレー射撃では、心情によって成績が左右されることも珍しくないようだ 【写真は共同】
一方、私が専門とするトラップは、15メートル先から放たれ76メートル先まで飛んでいくクレーを撃つ種目です。銃を構えた状態でコール(掛け声)し、その声に機械が反応してクレーが飛び出します。腰に手を当てた状態で待機し、合図の後に構えて撃つスキートとはこの点も異なりますね。トラップの場合、クレーは計5カ所から左右上下ランダムに飛び出すので、瞬時に飛び出した方向を察知して撃ち落とさなければなりません。1ラウンドにつき25枚(5カ所の射台×クレー1枚×5回)のクレーを射撃し、1枚つき2発以内で撃破できれば得点となります。
五輪などの国際ルールの場合、上位6名が進出するファイナルではトラップでも1枚につき1発のみなんです。まさに「一発必中」となり、難易度が上がりますね。競技は2日間にわたって行われて、初日は予選5ラウンド中の3ラウンドのみで、2日目に予選残り2ラウンドとファイナルラウンドを実施します。なので、2日目のチケットが当たった人は予選と決勝の両方の試合を観戦できますね。
ファイナルでは25枚を6人が撃ち込み、まず最下位が脱落。その後は5枚ずつ撃ったごとに最下位が脱落し、最後の金メダル争いは1対1の10枚勝負となります。最後の最後までヒリヒリとした目の離せない展開が続くのがクレー射撃の面白いところですね。五輪のメダル争いは技術はもちろんのこと、メンタルが勝敗を分けますね。
23年間愛用しているのがこの「ベレッタ」。ベレッタがなければ競技人生はなかったと言い切るほどの、いわば相棒だ 【Getty Images】
クレー射撃は動的射撃で、ライフル射撃のような静的な固定された的を精密に撃ち抜く競技ではありません。クレーの動きを銃口の先で捉えつつ、冷静に状況を判断しつつ射撃することが求められます。心情が銃にダイレクトに反映されてしまう競技なので、平常心を保って競技に集中することがなりよりも重要になりますね。ちょっとでも邪念が入ると失中につながってしまうんです。
そんな繊細な競技だからこそのこだわりは、“一度も浮気をしたことがない相棒”ですね。私は競技を続けて23年になりますが、イタリアの銃器メーカーである「ベレッタ」の銃をずっと愛用しています。1997年のイタリア射撃留学時に、現地の工場で自分の体に合うものを作ってもらったのが出会いでした。その時の思いはいまだに鮮明で、忘れやしませんね。工場に行った次の日には自分の体に合った銃で練習できたのは衝撃でしたし、サポート体制も素晴らしかったです。
もちろん、銃の型の変更などはありましたけど、私の競技人生はベレッタ一筋。一緒に戦ってきた相棒というか、いわばバディですよね。競技人生のパートナーですし、「すべて」です。ベレッタがなければ、ここまで競技を続けてこられなかったとさえ思います。