FC今治・岡田武史会長がSAJ2020に登壇 スポーツアナリティクスに求めるものは?

宇都宮徹壱

岡田会長「最近はCRMのことばかり考えている」

岡田会長(中央)が今治で行ったデロイト トーマツによる観戦体験調査を紹介した 【写真:日本スポーツアナリスト協会】

「SAJの印象ですか? われわれがよく行くスポーツの集まりとは、だいぶ違う人種が来ているなと(笑)。いろいろな人たちに関心を持っていただいたのは、とてもありがたかったですね。実は第1回(SAJ2014)に呼んでもらっていたと思っていたんですが、ビデオ出演だったんですね(苦笑)。ビデオ出演で呼ばれた気になっているなんて大したものだなと(笑)」

 声の主は、FC今治の岡田武史会長。そしてSAJとは「スポーツアナリティクスジャパン」の略称である。さまざまなスポーツ競技の現場で活躍するアナリスト集団、JSAA(日本スポーツアナリスト協会)の主催で2014年からスタートし、今年で6回目を迎えた。チケットは一般が13,500円で、学生が6,750円。この料金設定で定員が1,000人ということだから、スポーツにおけるアナリティクスへの関心度は、ここ数年で格段に高まっているように感じられる。再び、岡田会長の言葉に耳を傾けてみよう。

「あの当時、データというのはゲーム分析がほとんどだったんですね。例えば『右サイドでこれだけ攻められています』とか。でも監督の仕事をしていれば、そんなの試合を見ていたら普通に分かることですよ(苦笑)。だからゲーム分析というのは、基本的にはミーティングで選手に分かりやすく伝えるのが目的です。僕自身、最近は試合のデータは見向きもしないです。むしろ来場者が何人で、ひとり単価がいくらとか、CRM(顧客関係管理)のことばかり考えていますね」

 今回、2月1日に都内で開催されたSAJ2020において、岡田会長は「スポーツ観戦のCX(顧客体験)向上〜グローバル調査から見えた日本の課題とFC今治の挑戦〜」というセッションに登壇している。もう1人の登壇者は、デロイト トーマツコンサルティング合同会社の森松誠二氏。そして不肖・私は、モデレーターという大役を仰せつかることとなった。場違いは承知の上だったが、過去5シーズンにわたり今治を取材し、なおかつデロイト トーマツとの関係をよく理解しているということでのオファーだったようだ。

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「これまでは、デロイト トーマツコンサルティング1社が、今治のパートナーでした。それが今年からは、デロイト トーマツグループとして、さまざまなプロフェッショナルが今治と一緒にやっていくことになりました」と語るのは森松氏。昨年に行われた今治での観戦体験調査も、その一環と見ることができる。クラブが今季からJ3で戦うにあたり、岡田会長はスポーツアナリティクスに何を期待しているのか。当セッションで語られた言葉を拾いながら、考察することにしたい。

人口16万人の今治で1万人のスタジアムを埋めるために

人口の少ない今治でどう観客を集めるか。岡田会長は観戦体験の向上を重視している 【写真:日本スポーツアナリスト協会】

 デロイトトーマツによる今治での観戦体験調査については、実は昨年夏に森松氏に取材しており、すでにスポーツナビにて記事化されている。
 よって調査の概要については、簡潔に言及することにしたい。そもそものきっかけは「スポーツ観戦というものは、もっと面白くなるのではないか?」という森松氏の仮説であった。試合情報の認知からチケット購入、そしてスタジアム観戦から試合翌日のニュース閲覧に至るまでを「観戦体験」と定義。それぞれの観戦体験を、日本、ドイツ、米国で調査した上で可視化している。

 このグローバル調査の結果を単に公開するだけでなく、今治との協働で1シーズンにわたる調査を実施し、その結果を分析するのが今回のセッションのテーマ。ここで、ひとつの疑問が浮かぶ。2019年の今治はJFL所属。しかもホームタウンの今治市の人口は15万人から16万人といったところだ。なぜ人口減少が続く地方の4部クラブが、デロイト トーマツによる観戦体験調査を受け入れることになったのか。これには、四国リーグ時代から岡田会長が感じていた、ある確信が起因していた。

「あの当時、仮設の試合会場に2,000人が集まったけれど、純粋にサッカーを見に来ているのは2〜300人くらいだったと思う。街中が閑散としていても、試合に来たらたくさんの人が来場していて、ワクワクさせるものがそこにあった。『FC今治は強いです』とか『面白いサッカーが見られます』だけでは、正直厳しいと思っています。あまりサッカーに詳しくない人でも、あるいは試合に負けて悔しくても、『また来よう』と思って帰ってもらえるようにしないといけない」

 今治は2017年、5,000人収容の夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)をオープンさせると、試合前に来場者が楽しめることを目的とした「フットボールパーク構想」に力を入れてきた。そして今年は、1万人収容の新スタジアムの建設を着工する。夢スタに訪れる3,000人の観客について、森松氏は「(人口比率で考えると)東京で言えば30万人が来ている計算」と評価するが、新スタジアムで1万人を埋めるのは容易なことではない。だからこそ今治は、観戦体験調査を重視している。その上で岡田会長は、イタリアの名門クラブの事例についても言及する。

ユベントス・スタジアムの外観。レストランやショッピングセンターを入れたことで遠方からの来場者が増えた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

「ユベントスは、4万人収容の複合型スタジアム(ユベントス・スタジアム)を作ったんですね。球技専用にして、レストランやショッピングセンターも入れたら、何が起こったか。それまでイタリアのファンは、試合の15分前にスタンドに来て、試合が終わるとさっさと帰っていた。それが2時間前に来て、試合後もしばらくスタジアムに留まってお金を落とすようになった。100マイル(約160キロ)離れている場所から来る観客が、10%から55%に増えたんですよ。1万人のスタジアムをいっぱいにするには、われわれも半日過ごせるような場所を作らないといけない」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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