神宮を沸かせたドラ1左腕・加藤幹典 人生を変えたプロ1年目の「違和感」
折れかけた心に響いた大先輩の「檄」
長いリハビリ生活の苦難を乗り越え、ようやくプロ初勝利を挙げた加藤。再起のきっかけは、ある大先輩からのきつい一言だった 【写真は共同】
「お前、トレーニング舐めてんの?」
ハッと目が覚めた。
「石井さんは腱板が壊れていたわけだから、そこから復帰するのは並大抵のことではないと思うんです。それでもめげずに黙々と、しかも想像以上の、ものすごい量のトレーニングをしていた姿が印象的でした。これぐらいやらなければならないんだ、と切実に感じました。石井さんが一度折れた僕の心を、再起に向かって導いてくれた。この肩でできるところまでやってみよう、と思いました」
2010年の7月8日、阪神戦で2年ぶりに先発登板し、プロ初勝利。つらい時期を乗り切っての白星が、プロ野球人生唯一の勝ち星となった。
「あのときも、スピードはまったく出ていなかったんですよ。ただ面白いことに、スピードが出ないなりにもプロで抑えるすべというのが分かってくるんです。相手バッターに対して変化量で勝負するのでなく、タイミングを変える。バッターに自分のスイングをいかにさせないかが大事なんですね」
もしも1年目、自分で肩の違和感をしっかり自己申告し、治療に入っていれば結果は変わっていたかもしれない。あの分岐点での判断が、自身の野球人生を変えてしまったともいえるだろう。それには後悔の思いもある。ただ、リハビリ生活の間に学んだトレーニングや故障に関する知識が、その後の加藤の人生において貴重な財産になったことは間違いなかった。
(企画構成:株式会社スリーライト)
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加藤幹典(かとう・みきのり)
【撮影:スリーライト】