連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

瀬立モニカが魅せる剛柔一体のパドリング 地元に誓うパラカヌー日本人初のメダル

C-NAPS編集部

パラカヌー・女子カヤックで、2大会連続でのパラリンピック出場となる瀬立モニカが競技の魅力を語った 【写真:C-NAPS編集部】

 多くの日本人パラアスリートにとって一生に一度の経験になるであろう、自国開催のパラリンピック。そんな夢舞台を家から「車で15分」という、恵まれた環境で戦える選手がいる。パラカヌー・女子カヤックで2大会連続の出場を決めた瀬立モニカ(江東区カヌー協会)だ。競技会場の「海の森水上競技場」は生まれ育った地元・江東区にあるだけに、まさに“ホームゲーム”としてパラリンピック本番を迎える。

 瀬立は高校1年の時に体育の授業で脳と胸椎を損傷。体幹機能障害を負い、車いす生活となった。しかし、その翌年に協会からのオファーでパラカヌーを始めるとすぐに頭角を現す。競技歴わずか1年で2015年世界選手権に出場し、翌16年にはリオデジャネイロパラリンピック出場を果たした。8位という悔しい結果に終わったリオの出場は補欠による繰り上げ内定だったが、東京への切符は本番1年前につかみ取った。19年9月に行われたテストイベントではメダルを獲得するなど、着実に実力をつけている。

 そんな瀬立の特徴は、繊細さに力強さを兼ね備えたパドリング。果たして水上で、カヌーの中で、一体どんなことを意識して競技に臨んでいるのか。パラカヌー観戦のポイントやパラリンピックにかける意気込み、地元への思いを聞いた。

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パドリングのわずかなズレが大きな差につながるパラカヌー

パラカヌーのスプリントは、横並びで200メートルの着順を競う分かりやすくシンプルな競技だ 【写真は共同】

 パラカヌーは水上の真っ直ぐなレーンで9艇が一斉にスタートし、200メートルの着順を争う競技です。カヌーの先端がゴールラインを通過するタイムで順位が決まるので、観戦するうえではすごくシンプルで分かりやすい競技だと思います。私の自己ベストは54秒台ですが、世界記録だと51秒台でこの距離を駆け抜けますね。

 パラカヌーは主に下肢障がいのある選手が対象です。障がいの程度が重いL1クラスから程度の軽いL3クラスまで3つの階級に分かれていて、私はL1クラスに属しています。また、パラカヌーの種目は、五輪のようにスラロームなどはなく、個人による200メートルのスプリントだけですが、「カヤック」と「ヴァー」という2種類のカヌーがあります。私が専門とする「カヤック」は、両側にブレードのついているパドルを使って左右両方の水を漕ぐことでカヌーを前進させます。

 一方の「ヴァー」は、カヌーの片側にアマと呼ばれる浮き具がついているのが特徴。そのアマでバランスをとりながら片側だけで水を漕ぎます。ヴァーで難しいのは、まっすぐ進まないところですね。ヴァーでは、パドルを水に入れる時の面の向きの変更や、パドルを漕ぐ際の軌道修正など高いパドリング技術が求められます。

パラカヌーではパワーはもちろんのこと、フィッティングのバランスとパドリングの正確性が重要となる 【写真は共同】

 カヌーは一般的には腕の力だけで進むスポーツだと思われがちですが、実は健常者のカヌーの場合、足の踏ん張りを使って体幹を回旋させて前に進んでいるんです。でもパラカヌーの選手は下肢に障がいがあるので、それができません。すべてを上半身だけでコントロールする必要があります。バランスの悪い中で水を多くつかむためにも、どこまでパドルに体重を乗せれば大丈夫かを常に意識しつつ、水の中に落ちてしまわないぎりぎりのラインを攻めています。

 バランスを保つうえで重要なのがシートのフィッティングですね。私は“モニカシート”と呼んでいて(笑)、競技を始めてもう5台目になります。体がブレたり、抜けたりしてしまうのをなくし、全てのパワーを前への推進力につなげようという目的で作りました。今のこだわりは「シートの長さ」です。通常はシートが膝までしかないんですけど、“モニカシート”は足首まである大きいタイプなんですね。脚が動いてしまうのを防ぎ、カヌーと体を一体化させることで、より力を伝える工夫をしています。

 カヌーは漕ぐ力ももちろん重要ですが、正確で効率の良いパドリングによってその力がより水面に伝わりやすくなります。実はパドリングの入水角度が少しズレただけでも、それが大きな差になってしまうんです。たとえば、私の場合は200メートルで100回ほどパドルを漕ぎますが、1回のパドリングでベストの位置から2センチずつズレたら、最終的に2メートルのズレにつながります。ゴール時に他の選手から2メートルも後れを取ったら、好成績は望めないですよね。特に後半の勝負どころの失速を防ぐためにもパドリングの正確性を磨いています。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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