「負けない」サッカーに徹したFC今治 JFLラストゲームで見た夢スタの風景
確実に変わりつつある今治
JFLのラストゲームでの今治サポーターによるコレオグラフィー。勝ってシーズンを終えたい 【宇都宮徹壱】
さて、今治のJ3昇格について私は、単なるサクセスストーリーではなく《今治という街を変え、四国を変え、さらには日本社会を変えるという、壮大なストーリーの端緒に過ぎないのである。》と前回のコラムで書いた。そして《それを確認するために、12月1日に夢スタで開催される最終節を、現地で見届けることにしたい。》と締めくくっている。要するに「岡田武史がジョインしたことで、今治の風景がどう変わったのか」ということを、今回のJFL最終節の取材で確認しておきたかったのである。
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今治サポーター数人と食事をしての帰り道。どこからともなく「明日、“エフシー”の試合を見に行くから」という会話が聞こえてきた。すぐにサポーターのひとりが反応。「夢スタに行くんですか?」「普段どこで見ているんですか?」といった話で盛り上がり、その場で「じゃあ明日、一緒に応援しましょう!」と約束を取り付けるに至った。そんなやりとりが、人口約15万人の小さな街の至るところで起こっているのではないか。見た目には分かりにくいが、今治は少しずつ、しかし確実に変わりつつある。
相性が悪い相手にスコアレスドロー
右サイドを攻め上がる駒野。試合後「今季は自分たちのリズムでできた試合が少なかった」と語る 【宇都宮徹壱】
そもそも青森は、今治にとって因縁めいた相手でもある。岡田代表体制となって1年目の2015年、岩手で行われた全社(全国社会人サッカー選手権大会)2回戦で敗れた相手が、この青森。この全社でベスト4となり、地域決勝(全国地域リーグ決勝大会=現地域CL)出場権を得た青森は、同大会でも優勝して今治より1年早くJFL昇格を果たしている。もしもあの試合で今治が勝っていたら、この年の東北リーグで2位に終った青森の昇格はなく、Jリーグ百年構想クラブに承認されることもなかったかもしれない。
試合が始まると、青森がゲームの主導権を握った。左サイドバックの石澤善己、そしてトップ下の和田響稀が積極的に前に出て仕掛け、前線の萬代宏樹が危険なスペースに顔を出してはゴールを狙う。相手の勢いに出鼻をくじかれた今治は、前半22分に有間潤がGKと1対1となり、35分には駒野友一の右からの低いクロスに玉城峻吾が決定機を迎えるが、どちらも青森の守護神・神山竜一の好判断に阻まれてしまう。およそ3位と13位の対決とは思えない対戦は、0-0のままハーフタイムを迎えた。
このまま終わるわけにはいかない今治は、後半19分に玉城に代えて長島滉大を、28分には原田亘を下げて内村圭宏を投入。その間、駒野のクロスや橋本英郎のミドルシュートなど、何度かチャンスらしいチャンスは作るものの、得点の匂いは感じられない。今治ベンチは後半42分、37歳のベテランDF太田康介をピッチに送り出す(OUTは有間)。実は3人の交代選手のうち、内村と太田は今季限りでの退団が発表されたばかり。サポーターは万感の思いで声援を送ったはずだ。試合はそのままスコアレスドローに終った。