右代啓祐が追求する記録更新への伸びしろ 十種競技で示す「心技体のアップデート」
3大会連続での五輪出場を目指す右代啓祐に、最も過酷と呼ばれる陸上の十種競技の魅力を聞いた 【C-NAPS編集部】
大会前に紆余曲折(うよきょくせつ)のドラマが起こり、注目度が高まった世界陸上の結果は7545点の16位。東京五輪出場を見据えて目標に掲げていた8000点、12位には及ばなかった。しかし、12年のロンドン五輪で日本人として同競技48年ぶりの五輪出場を果たし、続く16年のリオデジャネイロ五輪では日本選手団の旗手を務めた“日本の十種競技界の象徴”が自国開催の五輪出場を諦めるはずなどない。
今回は五輪出場権獲得に向けて調整を続ける右代に、最も過酷な競技と呼ばれる十種競技の魅力やドーハでの世界陸上の際の心境、東京五輪への夢を聞いた。また、逆境に立ち向う不撓不屈の精神や33歳になっても衰えを知らない驚異の肉体の秘密にも迫った。
自身のアップデートで最も過酷でタフな競技に立ち向かう
「走る・投げる・跳ぶ」という総合的な運動能力が問われるのが十種競技の特徴だ 【Getty Images】
十種目もあるので、当然ながら得意不得意が存在します。私はパワー系の選手なので、砲丸投げ、円盤投げ、やり投げが得意種目です。これらの種目で高記録を出し、総合得点を伸ばせれば理想的ですね。一方で走る種目は好きではありますが、正直苦手でもありますね。若い選手についていけない時もあります。ただ、自分の苦手な部分こそ“最大の伸びしろ”だと思うので、年齢関係なく後輩に積極的に走りのアドバイスをもらうようにしています。
苦手分野を伸ばすためには、自分自身の体のポテンシャルを最大限に活用することを意識しなければなりません。端的に言えば「運動神経」ですよね。例えば、自分の場合はパワー系の種目では記録を出すための運動神経が研ぎ澄まされていますが、走ることに関してはまだポテンシャルを発揮しきれていませんね。だからこそ、33歳になっても走りで記録を伸ばすためには、できなかった動きにチャレンジすることが大切です。つまり、これまでは使われていなかった筋肉を、使い方を変えることでうまく活用できるようになるためのトレーニングを行っています。
運動神経はいわば「うまく体を動かすための感覚」で、単にダッシュを繰り返すなど、これまでと同じ練習を繰り返すだけではレベルアップしないんですよ。走る際にどの筋肉をどう使っているのかを頭で考えたうえで、感覚を養う練習が必要です。今は発展の余地がある筋肉のポテンシャルを活用するためにも、複合的なトレーニングをひたすら試しています。そうすることで、30代半ばでも走りに関する運動神経を向上させることができると思っています。
右代は得意分野を伸ばすだけでなく、できないことや苦手分野の克服によって常に自分をアップデートさせている 【Getty Images】
十種競技は非常にタフなので、「心技体」のバランスが特に重要です。どれかが飛び抜けて秀でていても、結果につながらないケースもあります。例えば、有力選手でも一種目、二種目で記録が出ずに精神面のコントロールができなくなってしまうと、その大会を散々な結果で終えることも珍しくありません。肉体的にも精神的にも強くなければ、十種競技で上位にはなれないのです。
だからこそ「心技体」の正三角形を目指し、バランスよくそれぞれの能力をアップデートさせることが重要になります。そのために、私はトレーニング同様に食事や休養も意識しています。日本では休養や食事が軽視されがちですが、能力を高める要素はトレーニングだけではないことをもっと多くの選手が学ぶべきでしょうね。