単なる「サクセスストーリー」ではない FC今治のJ3昇格が意味するもの
前半で2失点。いいところなく敗戦
JFL1年目の鈴鹿は「打倒今治」に燃える 【宇都宮徹壱】
そんな鈴鹿の挑戦を受ける今治は、前節から橋本に代えて楠美圭史を送り出した以外は、まったく同じスターティングメンバー。すでに優勝の可能性は失われても、残り3試合すべてに勝利しようという小野監督の強い意志が感じられる陣容だ。しかしキックオフ早々、今治はCKから混戦となり、藤沢ネットにあっさり先制ゴールを許してしまう。さらに37分には、右サイドに展開したエフライン・リンタロウがドリブルで持ち込み、左足のミドルシュートで追加点を挙げる。今治が何もできないまま、前半は終了した。
前半に2失点を喫した今治は、後半から橋本を投入するも逆転ならず。今季最後のアウェーは敗戦に終わった 【宇都宮徹壱】
試合後、鈴鹿の選手とスタッフ一同がスタンドに出向いて、観客にあいさつに回った。ミラ監督や岡山コーチが、今治のサポーターに「昇格おめでとう!」と声をかけていたのは、いかにもJFLらしい光景だ。そのミラ監督、今日の試合について尋ねたところ「今治はやることが明確なので、対策を立てやすかった」とのこと。確かに藤沢とリンタロウの長身ツートップが機能していたが、これは地域リーグ時代から続く鈴鹿の強みである。それを最後まで克服できなかった今治は、来季に向けて少なからぬ課題を残したと言えよう。
Jリーグチェアマンの今治への評価とは?
残り2試合を全敗してもリーグ4位以内、そして百年構想クラブの中でも2位以内を確定させ、すでに今季の平均入場者数も3000人を超えている。すべてのJ3昇格条件を満たしたことで、晴れて今治は56番目のJクラブとなった。一方で、ホームタウンの人口はわずか15万人。県内にはすでに愛媛FCもある。それでも村井チェアマンは「サッカーの競技団体を超えて『サッカーで地域社会をどう変えていくのか』に正面から向き合っている。それも東京というマーケットではなく地方で」と今治を評価した上で、こう続ける。
「人口減少、高齢化、そして経済疲弊。日本のどの行政も抱えている問題です。(今治がJリーグ入りすることで)日本全体の地域社会に希望を与える可能性があると思います。新しいスタジアムも、J2基準からJ1基準への拡張性を視野に入れながら、しっかり地域と向き合っている。(JFLで)2年の足踏みがありましたが、場当たりではなく長期的な視野に立ちながら地域とコミュニケーションすることで、Jリーグの理念を体現するクラブとなる可能性を感じています」
そうなのだ。今治のJ3昇格とは、単に元日本代表監督がクラブオーナーとなって、小さな地方クラブをJクラブに押し上げた「サクセスストーリー」ではない。今治という街を変え、四国を変え、さらには日本社会を変えるという、壮大なストーリーの端緒に過ぎないのである。そのことを確認するために、12月1日に夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)で開催される最終節を、現地で見届けることにしよう。そして最後に、あらためて申し上げておきたい。「FC今治、昇格おめでとう」と。