単なる「サクセスストーリー」ではない FC今治のJ3昇格が意味するもの
「4位以内確定」の瞬間を他会場で迎えて
18日のJリーグ理事会で今治のJ3昇格が決定。村井チェアマン(右)と今治の矢野社長が会見に臨んだ 【宇都宮徹壱】
第27節、今治はホームにFCマルヤス岡崎を迎えていた。この時点では12位に沈んでいたとはいえ、今治が今季初めての敗戦を喫した相手である。その前の試合で流経大ドラゴンズ龍ケ崎に5-0で大勝し、6試合ぶりに勝ち点3を加えた今治は、順位を3位に上げて4位以内確定まで「マジック5ポイント」としていた。この日の岡崎戦に勝利し、さらに5位以下のホンダロックSCとヴィアティン三重が引き分け以下に終われば、今治はJ3昇格の条件を満たすことになる。つまり、この時点ではあくまで「条件次第」の状況だったわけだ。
そして迎えた11月10日。JFLの途中経過をチェックしていたら、今治は前半27分の橋本英郎のゴールで先制。鈴鹿アンリミテッドFCとのダービーとなった三重は両者スコアレスの状態が続き、ホンダロックはMIOびわこ滋賀に0-1でリードされているではないか。時間の経過とともに、焦りの色は濃くなってゆく。
結局、今治は逃げ切りに成功。三重県ダービーはスコアレスドローに終わり、ホンダロックも終了間際に1点を返して1-1に終わった。この結果、今治はJ3昇格の条件のひとつである、JFL4位以内が確定。ただし同日、Hondaが優勝を決めたため、クラブとして掲げていた「優勝してJ3へ」という目標は果たすことができなかった。昇格という最重要ミッションは果たしたものの、優勝という目標が消滅した今、果たして今治は残り3試合をどのように戦うのだろうか。
「昇格内定」で残り3試合をどう戦うか?
昇格を決めた今治のサポーターは今季最後のアウェーにも20人以上が参戦 【宇都宮徹壱】
そしてもうひとつは、現地でお会いする今治の関係者に、直接「おめでとうございます」と申し上げることである。今治に関わる人たちがSNSで「おめでとうございます」と書き込む中、私は頑なに祝意を表することをしなかった。悔しくて意地を張っていたのではない。この5年間のクラブの歩みを、折に触れて取材してきた人間としては、とても軽々しい気持ちで「おめでとうございます」などと書き込む気分になれなかった。ならば、Jリーグからの昇格承認が下りる前に、自分の気持ちを直接伝えようと思った次第である。
キックオフ50分前、試合会場に到着。ピッチサイドで、今治の小野剛監督の姿を見かけたので、さっそく「おめでとうございます」と握手する。「いやあ、すみませんね。宇都宮さんがいらっしゃる前に決めてしまいました」と冗談めかしに語る表情は、ずっと抱えていた重圧から解き放たれた晴れやかさが感じられた。続いてアウェーが陣取るスタンドに顔を出して、20人ほどの今治サポーターにもあいさつ。親しいサポの1人は「先週で決まるとは思いませんでした」と、こちらも実ににこやかである。
鈴鹿サイドからも祝意の言葉が発せられた。「今治の皆さん、昇格おめでとうございます! でも、勝ち逃げは許しません!」と叫ぶのは、岡山一成コーチ。現役時代は「昇格請負人」として、さまざまなJクラブでプレーしていた岡山コーチは、今は鈴鹿で指導者の修行中である。彼が師事しているのが、今季からチームの指揮を執るスペイン人のミラグロス・マルティネス・ドミンゲス(愛称ミラ)監督。「日本初の全国リーグでの女性監督」として話題になった彼女だが、果たして今治を相手にどんなサッカーで挑むのだろう。