日本代表を輝かせた“世界最先端の戦術” チーム一丸となって生み出したトライ

斉藤健仁

世界を魅了した日本代表のアタック

HO堀江が自分で走ることができる状態で、SO田村とWTB松島もパスを受けに走る。選択肢が多い攻撃で相手DFを翻弄した 【写真:アフロ】

 44日間にわたって開催されたラグビーワールドカップ日本大会。日本代表が予選プールで4連勝し、史上初めてベスト8に進出したことが大きな盛り上がりにつながった。その中で、世界のラグビーファンを魅了したのは日本代表のアタックだった。

 日本代表は、前回大会も3勝したが4トライ以上のボーナスポイントを獲得することができずに予選プール3位に終わった。だが、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)に率いられた「ジェイミー・ジャパン」はアイルランド戦以外で、4トライ以上を挙げてボーナスポイントを得るだけの攻撃力を培っていた。
 予選プール4試合だけを前回大会と比較するとトライ数は9から13に、総得点は98点から115点に増え、失点は100点から62点と減った。

攻撃をデザインしていたトニー・ブラウンコーチ

日本代表の攻撃をデザインしたトニー・ブラウンコーチ(中央) 【写真:アフロ】

 攻撃をデザインしていたのは、ジョセフHCの右腕である元オールブラックスのトニー・ブラウンコーチだった。三洋電機時代、コーチ兼選手として、新人のSH田中史朗、HO堀江翔太をすぐに先発に抜擢。さらに、2011年に現役を引退後もパナソニックのアドバイザーとして、ロビー・ディーンズHCとともに、現在は世界の主流となった「4ポッド」を考案したとされる。

 ニュージーランド出身のブラウンコーチは、キック、パス、ランを使って「スペースを攻める」アタックを信条とし、戦術では世界の最先端を走っているコーチだった。「常に同じアタックはしない」と毎試合、ワールドカップでもスーパーラグビーでも相手によって戦術やサインを変えていた。

 2016年秋、ブラウン氏はジョセフHCとともに日本代表のコーチとなると、パナソニックやオーストラリア代表でも採用されていた「4ポッド」をアタック戦術の軸に置く。FWを「1-3-3-1」の人数で配置し、左右のポッドではBKの選手2人とバックローがユニットをつくる。そしてハーフ団やFBなど3人がゲームコントローラーとなる。

 ミッドフィールドのFW3人ずつのユニットに立つ選手たちは「スモウ」、外のユニットの選手たちは「サムライ」、ゲームコントロールする選手は「ニンジャ」と呼ばれた。特に「サムライ」の選手たちにアタックで“モメンタム”(勢い)を出すためにオフロードパスを奨励され、役割の一つとなった。

“苦手な部分”を就任当初から鍛える

日本代表が苦手だったオフロードパスをつないで奪ったPR稲垣のトライ 【写真:ロイター/アフロ】

 そして3次、4次攻撃でモメンタムが出ない場合は、SHのボックスキックやSOのハイパントキックで自分たちから「アンストラクチャー(崩れた局面)」をつくる、つまり「アンストラクチャーをストラクチャー化(決まった形)」することを狙った。
 ジョセフHCは「(セットプレーなどの)ストラクチャーからのアタックはうまくプレーするが、アンストラクチャーになると手こずる部分があった」と苦手な部分を就任当初から鍛えた。

 キックやオフロードパスをスキルとして定着させ、最終的にはキッキングゲームもパスラグビーもできる「戦術の幅」(リーチ マイケル主将)につながった。例えばワールドカップではFWに大きな選手が多いサモア代表戦では31回のキックを蹴ったが、相手のバックスリーにカウンターが得意なランナーがいるスコットランド代表戦では10回しか蹴らなかった。

少しずつ変化していった戦術

CTB中村亮土はさまざまな役割が求められる12番でレギュラーに定着した 【写真:アフロ】

 4ポッドの「1-3-3-1」が世界的に定着してくると、FWが前に出ないとなかなかアタックが機能しない問題が露呈する。すると、ブラウンコーチは2年目から2番の堀江翔太、8番のアマナキ・レレィ・マフィを浅めに立たせてえぐるようなコースを走らせた。相手に脅威になる選手を近場に立たせることで、外のスペース作る、使う意図があったことは明白だ。

 2018年はジョセフHCとブラウンコーチがサンウルブズも指揮したことで、戦術は変化する。FWのポッドの一人に12番を入れることで、大外に2枚、FWを立たせることができるようになり、「2-3(12番を含む)-3-1」となる。2018年6月8日のイタリア代表戦で、日本代表は左のエッジ(大外)にWTB福岡堅樹、FLリーチ、No.8マフィと並べたことでトライも挙げている。

 12番はFWシェイプを使って、FWを前に出したり、10番にパスを出したりと起点となった。そのポジションで2018年秋から輝きを増したのはSOとしてのプレー経験もあり、タックルが武器で、フィジカルにも長けたリーダーのひとりCTB中村亮土だった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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