ラグビーの祭典が日本に残した教訓 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(11月2日)

宇都宮徹壱

「一生に一度」の大会が私たちに教えてくれたこと

44日間にわたるラグビーの祭典が終了。大会は私たち日本人に何を残したのだろうか 【宇都宮徹壱】

 これでニュージーランドと並んで、優勝回数最多タイに並んだスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)。しかし今回の優勝は、いくつかの点で注目すべきトピックスがあった。まず、南アフリカの決勝でのトライは今大会が初めて。プール予選で敗れたチームが優勝したのも、今大会が初めて。そしてキャプテンのシヤ・コリシは、ウェブ・エリス・カップを掲げた初の黒人選手となった。初めて尽くしとなった今大会のファイナル。とりわけ3つ目の偉業については、かつてのアパルトヘイト(人種隔離政策)を理由にW杯出場が禁じられていた南アフリカが達成したという点においても、極めて意義深いものであった。

 試合後の会見では、イングランドのエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)の発言に注目が集まった。日本代表を率いた前回大会では、南アフリカを相手に「ブラントンの奇跡」を演じた名将であったが、今回の敗戦については「相手が良すぎた。これがラグビー」と答えるのみ。その上で、今大会については「一番素晴らしいW杯。観客はいい雰囲気をつくってくれたし、組織委員会もいい仕事をしてくれた。それだけに、優勝できなかったのは残念」と、日本語を交えながらコメントしている。

 ジョーンズHCの「一番素晴らしいW杯」という評価は、決して知日派ゆえのリップサービスではなかったと感じる。私自身は初めてのラグビーW杯取材だったが、サッカーのW杯を6回取材してきた経験に照らしても、非常に成功した大会だったと断言できる。日韓共催が半ば目的化していた02年と比べてみても、今大会はシンプルに日本独自のホスピタリティーと運営能力が発揮され、極めて満足度の高い国際大会が実現できていたと確信している。ちなみに、今回の決勝の公式入場者数は7万103人。サッカーW杯02年大会決勝の6万9029人を抜いて、同会場過去最多となったのも、今大会の成功を象徴する数字であった。

 今回のラグビーW杯のキャッチコピー「4年に一度じゃない。 一生に一度だ。」は、偽りなきものであった。今大会はわが国に大きなインパクトをもたらすと同時に、来年の東京2020を控えた私たち日本人にも少なからぬ教訓を残したように感じる。過剰な設備投資をせず、既存の施設を有効活用できたこと。競技に相応しい時期に大会を開催し、真の意味での「プレーヤーズ・ファースト」に徹したこと。これらのセオリーを遵守するだけで、一見とっつきにくそうなラグビーの国際大会でも、十分に盛り上がることが証明されたのである。

 来年の東京2020が、今大会以上の成功を収めることを祈りつつ、当連載を終えることにしたい。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント