白熱の3位決定戦と今大会の「日本らしさ」 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(11月1日)
日本大会は「歴代W杯で最も成功した大会」?
ニュージーランドの「国鳥」キーウィに扮したオールブラックスのファン 【宇都宮徹壱】
1987年にオーストラリアとニュージーランドの共催でスタートしたラグビーW杯は、第9回大会で初めて「伝統国」ではないアジアでの開催となった。当初は「ラグビー文化が定着していない日本で大会は成功するのか?」という懸念もあったと聞く。しかし、ふたを開けてみたら、大方の予想を覆す大盛況。チケットは10月4日の時点で目標の180万枚を完売し、プール予選37試合(台風で中止となった3試合を除く)の平均入場者数は3万4596人を記録。ファンゾーンの入場者数も、準決勝第1試合の時点で累計102万人を超えた(これは前回のイングランド大会をしのぐ新記録である)。確かに、台風による3試合の中止は残念であった。それでも、これを「成功」と言わずなんと言おう。残り2日間、よほどの下手を打たない限り、今大会は「歴代W杯で最も成功した大会」として歴史に残ることだろう。
大会が盛り上がった要因として、まず挙げられるのが日本代表の躍進。だが、それだけではない。運営面でも今大会は、海外メディアから高い評価を受けている。ひとつには2002年のサッカーW杯での経験が、レガシーとして活用されたことが挙げられよう。そしてもうひとつは「日本らしさ」。異国情緒を前面に押し出したことが、とりわけ海外から来日したファンに好印象を与えたように感じられる。
キックオフの期待感を高める、選手入場の拍子木と和太鼓。試合中にインサートされる「いよーっ」という歌舞伎の掛け声や三本締め。あるいは、富士山をかたどった大会エンブレムや武者絵によるチケットデザインなどのグラフィック。そして、歌舞伎の連獅子をモティーフにした大会マスコットのレンジー、などなど。今大会はあらゆるシーンでジャポニスムが散りばめられており、海外からやって来た選手やファンも心底楽しんでいる。それは試合後の選手のお辞儀や、ファンの鉢巻やハッピ姿を見れば一目瞭然であろう。
トライの応酬となった3位決定戦
今大会のマスコット、レンジーをかたどった髪飾り。本物にはまだ会えていない 【宇都宮徹壱】
キックオフは18時。いつものように試合前、オールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)によるハカが披露される。この日はオーソドックスな「カマテ」。ハカといえば先週の準決勝で、V字の陣形をとったイングランドの選手数名が「ハーフウェーラインを超えていた」として、罰金のペナルティーを下された。これはルール的な違反というより、対戦相手へのリスペクトを欠いたことが問題視されたようだ。罰金の額(30万円程度と見られる)も含めて、いかにもラグビーらしい決着と言えよう。試合前はウェールズの陣形に注目が集まったが、何も異変は起こらずに今大会最後のハカは終わった。
この日、ニュージーランドは準決勝のメンバーから7人、ウェールズは9人を入れ替えてきた。選手層が厚い前者に対し、後者はけが人続出による苦しいチーム事情が透けて見える。これまでの対戦成績は34戦して、オールブラックスが31勝3敗と圧倒。3位決定戦の勝率で見ると、ニュージーランドは3戦して2勝、ウェールズは2戦して1勝となっている。いずれのデータも、レッドドラゴンズ(ウェールズ代表の愛称)には厳しいものばかり。だが試合が始まると、手堅い準決勝から一転、前半からトライの応酬となった。
先制したのはニュージーランド。前半5分にFWのジョー・ムーディーが、13分にはフルバックのボーデン・バレットが、立て続けにトライに成功。いずれもリッチー・モウンガがコンバージョンを決めて14点リードとする。対するウェールズも負けてはいない。19分にハラム・エーモスが最初のトライ。さらにリース・パッチェルがコンバージョンとペナルティーゴール(前半27分)を決めて4点差とする。しかしオールブラックスも、前半33分と41分にベン・スミスが連続トライ。2つのコンバージョンもモウンガが冷静にポールを通し、前半は28-10で終了する。