ストイックな接戦を制したスプリングボクス サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月27日)

宇都宮徹壱

残り少なくなった大会を惜しむ人々

試合後の新横浜駅前はご覧のとおり。土曜日の決勝が終わったら、この界隈はどうなっているのだろうか 【宇都宮徹壱】

 なかなかトライが決まらない中、ひときわ目を引くのが日本戦でMOMに輝いた南アフリカの9番、ファフ・デクラークだ。身長190センチ以上、体重100キロ以上の大男たちがぶつかり合うピッチ上で、172センチ・88キロのデクラークは少年のように見える。それでも小兵のスクラムハーフは、常に肉弾戦の渦中に果敢に飛び込み、的確なパスで攻撃の起点となっていた。後半16分のダミアン・デアレンデによるトライも、モールからデクラークが右に展開した好判断が呼び込んだもの。ゴールも決まり、南アフリカが一気に7点差とする。

 しかし、ウェールズの気持ちが折れることはなかった。後半24分、相手のファウルにスクラムを選択すると、左サイドできれいにパスがつながり、最後にジョシュ・アダムズがトライに成功。難しい角度からのコンバージョンキックも、リー・ハーフペニーが確実に決めて三度(みたび)ウェールズが同点に追いつく。何というスリリングな展開。しかし熱戦の終焉は、あっけなく訪れる。後半36分、南アフリカがペナルティーのチャンスをものにして3点リード。そしてホーンが鳴った直後、ボールがタッチラインを割ってノーサイドとなる。ファイナルスコア19−16。南アフリカのファイナル進出が決まった。

「タフな試合内容だった。最後の4〜5分にペナルティーがあり、そこで流れが変わった。スクラムとフィジカルが強い南アフリカに対し、われわれもいいラグビーはできていたと思う。前半はボールを回せたが、フィジカルのぶつかり合いで消耗してしまった。ボールのバウンドの運もあった。それでも今大会、ここまで来られたことを誇りに思いたい。そしてニュージーランドとの3位決定戦を楽しみたいと思う」

 ウェールズ代表、ウォーレン・ガットランドHC(ヘッドコーチ)の試合後のコメントである。またしても決勝進出の夢を絶たれたレッドドラゴンズ。主力選手を負傷で欠く不運もあったが、オールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)との3位決定戦は、モチベーションあふれるゲームが期待できそうだ。そして決勝のカードは、イングランド対南アフリカに決定。視察に訪れていたエディー・ジョーンズHCは、どんなプランを巡らせながら5日後のファイナルに臨むのだろうか。こちらについても興味は尽きない。

 取材を終えて新横浜駅に向かうと、観戦を終えた各国のファンたちがビールをあおりながら盛り上がっている。ウェールズや南アフリカだけでなく、アイルランドやスコットランドやオーストラリアのファンの姿も見える。みんな楽しそうでありながら、間もなく閉幕となる大会を惜しんでいるようにも感じられた。残すは今週金曜日の3位決定戦、そして土曜日の決勝のみ。フィナーレの瞬間は、刻一刻と近づいている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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