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ストイックな接戦を制したスプリングボクス
サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月27日)

ラグビーW杯におけるコモンウェルス

初の決勝進出に向けて横浜国際総合競技場に向かうウェールズのファン。国旗に描かれた赤い竜も勇ましく見える
初の決勝進出に向けて横浜国際総合競技場に向かうウェールズのファン。国旗に描かれた赤い竜も勇ましく見える【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は24日目。前日のイングランド対ニュージーランドに続き、この日はもうひとつの準決勝、ウェールズ対南アフリカの試合が行われる。3大会ぶり4回目の決勝進出を果たしたイングランドと、ウェブ・エリス・カップを争うのはウェールズか、それとも南アフリカか。前者が勝てば史上初のW杯ファイナル進出。後者であれば3大会ぶり3回目の決勝進出となり、2007年大会決勝と同一カードとなる(この時は南アフリカが15-6で勝利)。


 キックオフ2時間半前、横浜国際総合競技場の最寄り駅である新横浜駅に到着。試合会場までゆっくり歩きながら、両チームのファンの動向を観察する。彼らのたまり場となっているのが、コンビニエンスストアの店先。皆がビール片手に談笑していて、さながら臨時のパブのようになっている。どちらも負けられない一戦だというのに、大騒ぎするわけでもなければピリピリするわけでもなく、皆和やかな雰囲気で談笑していた。サッカーのサポーターを見慣れている身からすると、国を超えたラグビーファンの連帯感は不思議なものに映る。


 もしかしたら、ラグビーW杯の常連国が「大英帝国文化圏」なるものを共有していることが、この距離感の背景にあるのかもしれない。ワールドラグビーのオリジナルメンバー8カ国のうち、フランス以外はすべてコモンウェルス・レイム(英国連邦王国)にゆかりのある国々である。今大会のベスト8も、日本とフランス以外はすべて英語を母国語とする国々。ラテン系やスラブ系などが一定以上の存在感を示しているサッカーとは異なり、ラグビーの世界は今なお根強いコモンウェルスの影響下にあるように感じられる。


 FIFA(国際サッカー連盟)と比べてワールドラグビーは、前身のIRB(国際ラグビー評議会)時代から競技の国際化に消極的であった。過去8回のW杯が、いずれもオリジナルメンバーの中で開催されていたのも「仲間内でパスを回す」文化を是としてきたからだ。とはいえ、米国のテレビ局の意向に逆らえない夏季五輪や、中国のスポンサーで埋め尽くされたサッカーW杯が、果たして正しい方向に進んでいると言い切れるだろうか。世の流れに左右されない、ラグビー独自の世界観を真っ向から否定できない理由が、そこにある。

両者共にトライがないまま前半が終了

こちらは南アフリカの女性ファン。前回大会は3位に終わったが、3大会ぶり3回目の優勝まであと一歩
こちらは南アフリカの女性ファン。前回大会は3位に終わったが、3大会ぶり3回目の優勝まであと一歩【宇都宮徹壱】

 日本が南アフリカに力負けして、ベスト8で大会を終えた記憶ばかりが鮮烈に残る先週の日曜日。しかし世界のラグビーファンは、その前に行われたウェールズ対フランスの一戦のほうが印象深く感じられたのではないか。前半にレッドカードで1人欠いたフランスに対し、13-19でリードされていたレッドドラゴンズ(ウェールズ代表の愛称)は、後半34分にトライとゴールを決めて逆転に成功。20-19という僅差でウェールズが競り勝ったこの試合は、今大会の五指に入る好ゲームであった。


 試合前の世界ランキングでは、ウェールズが3位で南アフリカが4位。通算対戦成績では、これまで35試合を戦って南アフリカが28勝1分け6敗と大きくリードしている。ウェールズが初めてスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)に勝利したのは、1999年6月26日にカーディフで行われたテストマッチで、奇しくもミレニアム・スタジアムのオープニングマッチであった。両者は前回大会の準々決勝でも対戦しており、この時は23-19で南アフリカが勝利。しかし直近の4試合ではウェールズが全勝している。


 18時キックオフの試合は、序盤からキックの応酬となった。前半14分、南アフリカがペナルティーゴールで先制。ハンドレ・ポラードのキックがポールを通過して3点を奪うと、その3分後にはウェールズのダン・ビガーもペナルティーゴールを決めて同点に追いつく。その後は20分と35分に南アフリカ、39分にウェールズがペナルティーゴールに成功。結局、両者共に3点ずつ得点を刻んで、前半は南アフリカの3点リードで終了する。それでも、テリトリーと支配率ではウェールズが上回っていた。


 言うまでもなく、トライはラグビーの醍醐味のひとつ。ここまでの4試合でのトライ数は、ウェールズが19で南アフリカが30を記録している。ところがこの試合の前半は、両者そろってトライはゼロ。そういえば、前日のイングランド対ニュージーランドも、両者ともに1トライずつに終わっている。やはり準決勝ともなると、こうしたストイックな展開になりがちなのだろうか。やがて後半のキックオフとなり、またしてもペナルティーゴール。今度はウェールズが決めて、これで9-9の同点となる。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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