日本代表の工夫を抑え込んだ南アの戦略 データで振り返るW杯準々決勝

斉藤健仁

苦しんだスクラム、ラインアウト

スクラムは予選プールでは安定していたが、南アフリカ代表相手には苦しんだ 【Photo by Yuka SHIGA】

 もう一つ、有効なアタックができなかったのはスクラム、ラインアウトといったセットプレーを安定させることができなかったことにある。マイボールスクラムは89%(8回中7回)と安定し、1度は相手からペナルティーを誘うなど善戦した場面もあった。だが、後半に3度、コラプシングの反則を取られ、そのうち2度は自陣でSOハンドレ・ポラードにPGを決められたことは試合の流れとして痛かった。

 また相手に身長2メートルを超えるLOがそろうラインアウトでは、南アフリカ代表は成功率100%だったが、日本代表は13回中、5回ボールを失っており62%の成功率に終わった。ラインアウトが安定しなかったことも、いいアタックができなかったことの大きな要因となった。また相手の武器だったドライビングモールに対して、後半26分には40メートルほどの前進を許してしまい、そのまま失トライにつながった。

 日本代表のジェイミー・ジョセフHCも「まずスピードをこちらがつくらないといけないが、セットプレーでもミスをしたし、ディフェンスも強かった」と南アフリカ代表を称えた。アタッキングチームである日本代表がトライを取れなかったのは、やはり、相手のキックとディフェンスを主体とした戦略、強力なセットプレーにやられたことが大きかった。

 9月の試合とは違ってWTBやFBのキック処理も安定しており、No.8の姫野和樹を下げてカウンターアタックを仕掛けたり、攻めに勢いがなくなった際はハイパントキックを使って崩そうとしたり、WTB福岡にスクラムのボールを投入させてアタックさせたりと工夫を見せたが、結局、ゴールラインは遠かった。

コンディション、選手層の差

今大会の全5試合に先発し、素晴らしい活躍を見せたCTB中村亮土 【Photo by Yuka SHIGA】

 南アフリカ代表は10月8日が予選プール最終戦で、しっかり休養もあった。また9月21日のニュージーランド代表戦の後は、31人の選手全員を使いながら戦ってきた。一方の日本代表は31人中5人が試合に出場しなかったように、ある程度メンバーを固定して予選プールを戦ってきた。そのため「15人、身体のどこかが痛い状態だった」(HO堀江翔太)ということは避けられないことだった。

 予選プール突破を目標にしていたチームと、決勝トーナメント以降をターゲットにしてきたチームとのコンディション、選手層の差が出てしまったことは否めない。相手の強力なタックルを受けたことも相まって、後半はチームにエネルギーがあまり残されてなかった。それでも最後まで戦う姿を貫いたことは、ホームの大声援の後押しがあったからに他ならないだろう。

財産になる決勝トーナメントの経験

試合後、ファンに感謝を伝える田中史朗(中央)と田村優 【Photo by Yuka SHIGA】

 こうしてラグビー日本代表は南アフリカ代表に敗れて、ベスト8で大会を終えた。ただ本気の南アフリカ代表にワールドカップの決勝トーナメントという舞台で、後半途中まで互角に戦えたことは大きな自信、財産になったはずだ。今後、決勝トーナメントでも勝てるチームを目指すには何が必要か、という指針にもなったはずだ。

 ラグビー界では欧州の「シックスネーションズ」こと6カ国と南半球の「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」の4カ国の計10のチームを「ティア1」と呼んできたが、日本代表も十分に「ティア1」に肩を並べる強さを見せたことは間違いない。

 予選プールで3試合が行われなかったものの、準々決勝までの観客は140万人を超えた。テレビ視聴率も南アフリカ戦は平均41.6%を記録し、海外メディアは日本代表の戦いを称賛した。日本だけでなく世界のラグビーシーン、スポーツシーンに日本代表が大きなインパクトを残すことに成功した大会となった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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