本拠地を譲ってくれたJクラブへの感謝 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月19日)

宇都宮徹壱

3会場に絞られた決勝トーナメント

東京スタジアムに集結したアイルランドのファン。日の丸のハチマキに書かれた文字は「闘魂」。 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は21日目。4週間にわたって行われたプール予選40試合を経て、いよいよこの日から「負けたら終わり」の決勝トーナメントがスタートする。

 勝ち上がったのは、イングランド、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、南アフリカ、そして日本。ティア1(伝統国)がずらりと居並ぶ中、開催国の日本は唯一のティア2(中堅国)代表として、そして初のアジアのチームとして、この場にいる。何と誇らしいことであろうか。

 一方で注目したいのが、残り8試合の会場。10月19日と20日の準々決勝は大分と東京。26日と27日の準決勝は横浜。そして11月1日の3位決定戦は東京、2日の決勝は横浜で行われる。今大会の開催地は、北は札幌から南は熊本まで12会場。そのうち9会場は、プール予選のみの開催である。2002年のサッカーW杯では、日本会場でのトーナメント8試合は、いずれも異なる会場で開催された。今大会のトーナメントが3会場に絞られたのは、間違いなくJリーグとの兼ね合いを考慮してのことだろう。

 今大会の12会場のうち、釜石と熊谷と東大阪はラグビー専用だったが、残り9会場はJリーグのゲームが開催されている。今大会は既存のスタジアムを有効活用しているが、当然ながら期間中にもJリーグは行われており(札幌ドームでは先月までプロ野球の試合も行われていた)、プール予選が終わったら多くのスタジアムをリリースする必要があった。例外となったのは、最もキャパシティの大きい横浜会場、首都である東京会場、そして自治体が大会招致に積極的だった大分会場である。

 これら3会場は、いずれも8月17日のJリーグ開催を最後に、ラグビー仕様への模様替えを開始。以降、横浜F・マリノスはニッパツ三ツ沢球技場で4試合、大分トリニータは大分市営陸上競技場で2試合、それぞれホームゲームを行っている。大変なのはFC東京で、都内にJ1の試合を開催できる会場がないため、8試合連続アウェー戦を強いられることとなった。最後のホームゲームでは首位だったものの、以後の6試合は1勝2分け3敗で2位に後退。しかしこの日、ラグビーW杯の会場だった神戸で久々の勝利を挙げて、勝ち点で首位に並んだ。日々大会を楽しんでいる者としては、少しホッとするニュースである。

ニュージーランドのハカと、アイルランドの大合唱

ニュージーランドのファンの額には「必勝」の2文字。今大会はハチマキ姿のファンをよく見かける。 【宇都宮徹壱】

 この日は近所の東京スタジアムで開催される、ニュージーランド対アイルランドの試合を取材。プール予選が終わってから、いかにもラグビーファンと思しき大柄の外国人を見かける機会が、めっきり少なくなったような気がする。ラグビーW杯は44日間の長丁場。そんなに長い間、休暇が取れる人はそう多くはないだろう。今日のスタンドは、日本のファンがメインかもしれない──。そんなことを考えながら会場に到着すると、あに図らんや、スタジアム周辺はアイルランドの緑とニュージーランドの黒で埋め尽くされていた。

 キックオフ1時間半前。今大会の盛り上がりと、日本代表の躍進をまとめた映像が大型スクリーンに映し出される。スタンドから鋭い指笛が鳴ったのは、日本がアイルランドに勝利したシーンが流れた時だ。格下に敗れてプール予選2位突破となったのは、ファンにとって相当な屈辱だったようだ。とはいえ、4試合での総得点121は日本より6点多く、失点27は日本の半分以下。ボーナスポイントはプール予選最多タイの4である。こうした数字を並べてみると、あらためて直接対決での勝利の重みを痛感する。

 一方のニュージーランドは、プール予選は3勝1分けだが、ドローは台風で中止になったイタリア戦。残り3試合だけで、いずれも今大会2位となる得失点差+135と22トライという記録を残している。ちなみに総得点(185)、得失点(+149)、総トライ数(27)でプール予選最多の南アフリカには、初戦で対戦して23−13で勝利。その後は楽な相手との対戦が2試合続いての台風による中止となった。南アフリカ戦から1カ月近く、テンションの高い試合から遠ざかっていることが、どう影響するのかが気になるところだ。

 試合前、オールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)によるハカが始まる。ハカには「カマテ」と「カパオパンゴ」の2種類があり、この日は特別な試合の前に披露される後者が披露された。しかしシャムロック(アイルランド代表の愛称)ファンの大合唱に包まれて、ほとんど何も聞こえない。アイリッシュたちは、東京スタジアムを完全にホームの状態に塗り替えることに成功した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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