香西宏昭が志向する緻密な車いすバスケ 「障がいの度合い」によるチーム編成が鍵
世界レベルを知る男・香西宏昭が車いすバスケットボールの奥深さを語る 【写真:C-NAPS編集部】
高校卒業後に単身渡米し2010年にイリノイ大学に編入を果たすと、2000年シドニー、04年アテネと母国・カナダをパラリンピック連覇に導き、世界一のコーチとも称されるマイク・フログリー氏のもとで指導を受ける。世界的名将から車いすバスケットボールの戦術と技術を学んだ香西は、全米大学リーグ優勝を経験し、シーズンMVPを2度獲得するなど出色の活躍を見せた。大学卒業後はプロ選手として、ドイツリーグを6シーズン戦い抜くなど、常に世界基準のバスケを肌で感じている。
そんな香西に車いすバスケットボール独自のルールや魅力、ライバルについて聞いた。また、本番前の1年間を日本でプレーする理由や前回のリオデジャネイロで味わった悔しさなど、パラリンピックへの思いを存分に語ってもらった。
車いす操作や戦術面に求められる「緻密さ」が魅力
多くの人は車いすバスケットボールの魅力として、車いす同士のぶつかり合いの衝撃やクラッシュ音を挙げますよね。そうした試合中の激しさは魅力の一つですが、僕はこの競技ならではの「緻密さ」が醍醐味(だいごみ)だと思っています。ボールを扱いながら車いすを操作するので、ボールスキルだけでなく、チェアスキルもかなり求められます。技術面の緻密さにはぜひ注目してほしいですね。特に車いすだと横の移動ができないため、素早い方向転換や数センチ単位の細かい操作で相手の間をすり抜ける技術が不可欠です。
健常者のバスケットボールとは異なり「車いすという物体」が存在するため、守備の際には相手の進行方向に侵入して物理的に車いすの動きを止めることもできます。そのため、攻撃時には進路を妨害する相手をかわしてスペースに抜け出すための緻密な操作が問われますね。僕はアメリカやドイツでもプレーしてきましたが、日本人の車いす操作の緻密さは群を抜いていると思います。身長や体格で劣る分、そうした技術面の緻密さで世界に対抗する必要があります。
ボールスキルに加えてチェアスキルも求められるのが車いすバスケットボール。香西の巧みな車いす操作に注目だ 【Getty Images】
この持ち点制度によって戦術の幅が広がるのも車いすバスケットボールの魅力の一つです。持ち点によっては、みぞおちから下の感覚がなく振り返る動作ができない選手もいます。攻撃時は持ち点の高い選手がそうした持ち点の低い選手のポジションを突く戦術を採用したり、反対に守備時にはチーム全体で持ち点の低い選手を意識的にカバーしたりすることが求められます。持ち点の範囲内で選手起用をやりくりし、選手の特性を活かした緻密な戦術を採用するところが、車いすバスケットボールならではの面白さですね。
一緒のチームでプレーするうえでは、選手個々が抱える様々な障がいを理解し、助け合うことが求められます。コート上では多くの駆け引きが繰り広げられるので、相手が自分たちの弱点を突いてくるようであればチーム全員でカバーし合うことが必要です。つまり、車いすバスケットボールは「社会の縮図」とも表現できるかもしれません。ビジネスの世界でも戦術の緻密さと相互扶助の精神が求められますからね。