「門番」との頂上対決に敗れたFC今治 ホーム都田でHonda FCが見せた優位性
10週間後に持ち越された頂上決戦
Honda都田サッカー場のスタンドを盛り上げるパッサーロ。Honda FCはマスコットもJリーグレベルだ 【宇都宮徹壱】
試合の中止が決まる直前まで、両者の勝ち点は3ポイント差だった。決戦に臨むにあたり、今治の小野剛監督は「次の試合でシーズンが決まるわけではない。勝ち点を積み重ねることに尽きる」としながらも「3ポイント差で対決を迎えるのは、相手にとってプレッシャーになるはず」と密やかな意欲を示している。今治は今季のホーム開幕戦で、チャンピオンのHondaに2-1で初勝利。「王者・Hondaにも勝てるサッカー」を標榜(ひょうぼう)する小野監督にとり、都田での第2戦はミッション達成を見極める重要なゲームであった。
その後の5試合、今治は2勝2分け1敗で勝ち点8。一方のHondaは4勝1分けで勝ち点13。気がつけば首位との差は8ポイントに開き、3位のソニー仙台FCは3ポイントに迫っている。そして極めつけが、9月25日に行われた天皇杯ラウンド16。この試合でHondaはJ1の浦和レッズに(しかもアウェーで)2−0で勝利したのである。私は現場に居合わせていないが、当時の浦和の状況とHondaのポテンシャルを考えれば、「奇跡」というほどの番狂わせではなかったように思う。それでも選手たちには、大きな自信となったことは間違いない。
サッカーのみならず、スポーツの世界で「たられば」が禁物なのは百も承知。それでも思うのは「7月27日に頂上決戦が行われていたら」ということだ。勝敗はともかく、今回とは違った試合展開にはなっていたはずだ。あの時点での今治の敗戦は、第7節のFCマルヤス岡崎戦のみ、以降は6勝3分けの負けなしで好調を維持していた。一方のHondaも、第5節でホンダロックSCに2敗目を喫したものの、以降は7連勝を含む9勝2分けで立て直しに成功。この両者が激突すれば、より引き締まった好勝負となっていただろう。
両チームに退場者が出る意外な展開
今治は開始5分に桑島良汰のゴールで先制。しかしその後、両チーム共に退場者を出す意外な展開に 【宇都宮徹壱】
10月とは思えぬ残暑の下、13時にキックオフ。先制したのはアウェーの今治であった。前半5分、HondaのDF堀内颯人が自陣でボールを受けたところを、内村圭宏が追い込んでインターセプト。すぐさま前線にパスを送り、これを桑島良汰がきれいに流し込んだ。桑島は内村に並んで、これでチーム最多タイの6ゴール目。しかし、その後はHondaが優位に試合を進める展開が続き、今治DF太田康介のペナルティーエリア内でのハンドからPKを獲得。33分、遠野大弥が右足できっちり決め、スコアをイーブンにする。
前半38分、堀内が2枚目のイエローカードで退場となり、Hondaは10人での戦いを強いられることに。今治としては引き離すチャンスであったが、42分の橋本英郎のシュートはGK白坂楓馬のブロックに阻まれ、43分の原田亘が放ったシュートはポストに直撃。逆に前半終了間際には、先制点を決められた遠野に決定的チャンスを作られるが、これは今治の守護神・修行智仁が防いだ。前半は1-1で終了。先制ゴールこそ見事であったが、数的優位を生かせない今治には、拭い切れぬ不安ばかりが感じられた。
後半19分、漠然とした不安が思わぬ形で的中する。ペナルティーエリアの外にポジションをとっていた修行が、古橋達弥のシュートを手で止めて一発退場。今治ベンチは内村を下げて岡田慎司にゴールを託すも、古橋に直接FKを決められて逆転を許してしまう。10人対10人となって以降は、Hondaの優位性ばかりが目立つ展開に。そして後半44分、GK白坂のキックを受けた大町将梧がドリブルで持ち込み、最後は原田開が右足ワンタッチでネットを揺らす。今治にとっては、今季初の3失点目。試合はそのまま1-3で終了となり、今治は中断前のテゲバジャーロ宮崎戦に続いて、今季初となる連敗を喫した。
「チームもサポーターも、もっと強くならねば」
試合後、日陰のスペースに倒れ込む今治の選手たち。またしても「門番」との力の差を見せつけられた 【宇都宮徹壱】
ところで都田には、会見用のスペースがないため、両監督のコメントは得られなかった。そこで今回は、屋根のないスタンドから懸命に声援を送っていた、今治のサポーターの声を紹介することにしたい。質問に答えてくれたのは、地域リーグ時代から応援を続けている、二宮亜衣子さん。この試合の一番の敗因について、二宮さんは修行の退場を挙げている。
「修行選手の退場はあまりに痛かったし、衝撃的でしたね。今季の今治は精神面も含めて、修行選手に支えられている部分が大きかったんです。その直後にFKを決められて、一気に厳しくなってしまいましたね」
一方で彼女が指摘するのが、Hondaとの実力差。「王者・Hondaにも勝てるサッカー」は、もちろんサポーターの間でも共有されていた。ゆえに、皆が強い気持ちをもって挑んだ今回の都田遠征であったが、あらためて痛感させられたのが「門番」の偉大さだったという。
「Hondaさんは私たちにとって、高くて重厚な壁ですね。積み重ねてきた歴史と伝統の強さゆえに『超えてみろ』と鍛えてくれる存在。都田での敗戦を糧に、私たちはチームもサポーターも、もっと強くならねばと感じました」
思えば第2節で今治に敗れた時、Hondaの井幡博康監督は「この借りは都田で」と明言している。まさに「門番」ゆえの有言実行。これで両者の勝ち点差は、11ポイントにまで広がった。残り8試合での逆転優勝は、かなり難しくなったと言わざるを得ない。今の順位と今後の対戦カードを考えれば、おそらくリーグ戦でのHondaとの対戦は、これが最後となる可能性が高い。それだけに「王者・Hondaにも勝てるサッカー」が達せられなかったことは、残念でならない。
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