「門番」との頂上対決に敗れたFC今治 ホーム都田でHonda FCが見せた優位性

宇都宮徹壱

10週間後に持ち越された頂上決戦

Honda都田サッカー場のスタンドを盛り上げるパッサーロ。Honda FCはマスコットもJリーグレベルだ 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップの日本対サモアの一戦に、日本中が熱い視線を送っていた10月5日、JFLでも注目の一戦が行われた。JFLは9月23日を最後に、2週間の中断期間となっている。その合間を縫うように開催されたのが、1位・Honda FCと2位・FC今治との頂上対決。実はこのカード、第17節の試合として7月27日にHonda都田サッカー場でキックオフを迎えることになっていたのだが、おりからの台風6号の影響により中止。結果、頂上対決は10週間後に持ち越され、その間の順位表はずっと暫定扱いとなっていた。

 試合の中止が決まる直前まで、両者の勝ち点は3ポイント差だった。決戦に臨むにあたり、今治の小野剛監督は「次の試合でシーズンが決まるわけではない。勝ち点を積み重ねることに尽きる」としながらも「3ポイント差で対決を迎えるのは、相手にとってプレッシャーになるはず」と密やかな意欲を示している。今治は今季のホーム開幕戦で、チャンピオンのHondaに2-1で初勝利。「王者・Hondaにも勝てるサッカー」を標榜(ひょうぼう)する小野監督にとり、都田での第2戦はミッション達成を見極める重要なゲームであった。

 その後の5試合、今治は2勝2分け1敗で勝ち点8。一方のHondaは4勝1分けで勝ち点13。気がつけば首位との差は8ポイントに開き、3位のソニー仙台FCは3ポイントに迫っている。そして極めつけが、9月25日に行われた天皇杯ラウンド16。この試合でHondaはJ1の浦和レッズに(しかもアウェーで)2−0で勝利したのである。私は現場に居合わせていないが、当時の浦和の状況とHondaのポテンシャルを考えれば、「奇跡」というほどの番狂わせではなかったように思う。それでも選手たちには、大きな自信となったことは間違いない。

 サッカーのみならず、スポーツの世界で「たられば」が禁物なのは百も承知。それでも思うのは「7月27日に頂上決戦が行われていたら」ということだ。勝敗はともかく、今回とは違った試合展開にはなっていたはずだ。あの時点での今治の敗戦は、第7節のFCマルヤス岡崎戦のみ、以降は6勝3分けの負けなしで好調を維持していた。一方のHondaも、第5節でホンダロックSCに2敗目を喫したものの、以降は7連勝を含む9勝2分けで立て直しに成功。この両者が激突すれば、より引き締まった好勝負となっていただろう。

両チームに退場者が出る意外な展開

今治は開始5分に桑島良汰のゴールで先制。しかしその後、両チーム共に退場者を出す意外な展開に 【宇都宮徹壱】

 JFLでは長年にわたり、Jリーグ昇格を阻む「門番」として、上を目指すクラブから恐れられてきたHonda FC。私にとっても極めてなじみ深いクラブであるが、実は彼らのホームゲームを取材するのは今回が初めてである。ホームスタジアムのキャパシティは2506人。現在のJFLがスタートした1999年以降、平均入場者数が1200人を超えたことは一度もないので、極めて適正な規模感である。そして何より、フットボール専用であることが素晴らしい。まったく無駄のない、ストイックなスタジアムである。

 10月とは思えぬ残暑の下、13時にキックオフ。先制したのはアウェーの今治であった。前半5分、HondaのDF堀内颯人が自陣でボールを受けたところを、内村圭宏が追い込んでインターセプト。すぐさま前線にパスを送り、これを桑島良汰がきれいに流し込んだ。桑島は内村に並んで、これでチーム最多タイの6ゴール目。しかし、その後はHondaが優位に試合を進める展開が続き、今治DF太田康介のペナルティーエリア内でのハンドからPKを獲得。33分、遠野大弥が右足できっちり決め、スコアをイーブンにする。

 前半38分、堀内が2枚目のイエローカードで退場となり、Hondaは10人での戦いを強いられることに。今治としては引き離すチャンスであったが、42分の橋本英郎のシュートはGK白坂楓馬のブロックに阻まれ、43分の原田亘が放ったシュートはポストに直撃。逆に前半終了間際には、先制点を決められた遠野に決定的チャンスを作られるが、これは今治の守護神・修行智仁が防いだ。前半は1-1で終了。先制ゴールこそ見事であったが、数的優位を生かせない今治には、拭い切れぬ不安ばかりが感じられた。

 後半19分、漠然とした不安が思わぬ形で的中する。ペナルティーエリアの外にポジションをとっていた修行が、古橋達弥のシュートを手で止めて一発退場。今治ベンチは内村を下げて岡田慎司にゴールを託すも、古橋に直接FKを決められて逆転を許してしまう。10人対10人となって以降は、Hondaの優位性ばかりが目立つ展開に。そして後半44分、GK白坂のキックを受けた大町将梧がドリブルで持ち込み、最後は原田開が右足ワンタッチでネットを揺らす。今治にとっては、今季初の3失点目。試合はそのまま1-3で終了となり、今治は中断前のテゲバジャーロ宮崎戦に続いて、今季初となる連敗を喫した。

「チームもサポーターも、もっと強くならねば」

試合後、日陰のスペースに倒れ込む今治の選手たち。またしても「門番」との力の差を見せつけられた 【宇都宮徹壱】

 試合後、印象に残ったシーンがあった。サポーターへのあいさつを終えた今治の選手たちが、日陰のスペースに次々と倒れ込んだのである。ピッチの反対側で勝利のラインダンスを踊る、Hondaの選手たちとは実に対照的。この日のHondaは相手のお株を奪うようなポゼッションを披露し、ボールキープできない今治はずっと振り回されていた。とりわけワンボランチでフル出場した、橋本の疲労度は深刻。ガンバ大阪の黄金期を支えた元日本代表MFも40歳。こうしたベテランに依存せざるを得ない状況もまた、いささか心配である。

 ところで都田には、会見用のスペースがないため、両監督のコメントは得られなかった。そこで今回は、屋根のないスタンドから懸命に声援を送っていた、今治のサポーターの声を紹介することにしたい。質問に答えてくれたのは、地域リーグ時代から応援を続けている、二宮亜衣子さん。この試合の一番の敗因について、二宮さんは修行の退場を挙げている。

「修行選手の退場はあまりに痛かったし、衝撃的でしたね。今季の今治は精神面も含めて、修行選手に支えられている部分が大きかったんです。その直後にFKを決められて、一気に厳しくなってしまいましたね」

 一方で彼女が指摘するのが、Hondaとの実力差。「王者・Hondaにも勝てるサッカー」は、もちろんサポーターの間でも共有されていた。ゆえに、皆が強い気持ちをもって挑んだ今回の都田遠征であったが、あらためて痛感させられたのが「門番」の偉大さだったという。

「Hondaさんは私たちにとって、高くて重厚な壁ですね。積み重ねてきた歴史と伝統の強さゆえに『超えてみろ』と鍛えてくれる存在。都田での敗戦を糧に、私たちはチームもサポーターも、もっと強くならねばと感じました」

 思えば第2節で今治に敗れた時、Hondaの井幡博康監督は「この借りは都田で」と明言している。まさに「門番」ゆえの有言実行。これで両者の勝ち点差は、11ポイントにまで広がった。残り8試合での逆転優勝は、かなり難しくなったと言わざるを得ない。今の順位と今後の対戦カードを考えれば、おそらくリーグ戦でのHondaとの対戦は、これが最後となる可能性が高い。それだけに「王者・Hondaにも勝てるサッカー」が達せられなかったことは、残念でならない。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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