ラグビーのルールがもたらした感動 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月5日)

宇都宮徹壱

最後までボーナスポイントを目指した日本

最高に幸せな気分に浸りながら帰路につく人々。来週の横浜でも同じ光景を目にすることができるだろうか 【宇都宮徹壱】

 後半もなかなかトライは生まれず、両者ともペナルティーゴールを決めて3点ずつ上積みする。そして14分、日本はモールから姫野和樹のトライと田村のゴールで26−12。その後はこう着した状態が続くが、32分にはパワーと気迫を前面に押し出したサモアに、ついに初めてのトライを許してしまう。さらにゴールも決められ、スコアは26−19の7点差。このまま試合が終われば、サモアは敗れてもボーナスポイントが得られる。逆に日本が5ポイントを得るには、残り8分であと2トライが必要だ。

 後半35分、途中出場の福岡堅樹が、アイルランド戦に続くトライを決めてサモアを突き放す。田村のコンバージョンは失敗したものの、これで31−19。残り時間を考えれば日本の勝利は確実だろう。やがて、後半の40分終了を告げるホーン。しかし、あと1ポイントを得たい日本はもちろん、サモアもまた試合を終わらせようとはしない。サモア陣内の深い地点でスクラムを繰り返す中、ラストチャンスをモノにしたのは日本。松島の機転を利かせたプレーが4トライ目を生み、田村のコンバージョンキックもポールの内側に当たってゴールが認められた。そして、ノーサイドのホイッスル――。

 個人的な実感としては、今回のサモア戦はアイルランド戦以上に、観る者に感動を与える試合だったと思う。その大きな要因となったのは、やはりボーナスポイントの存在。前回大会で3勝1敗としながら、ボーナスポイントの差でベスト8進出を果たせなかった苦い経験が、最後まで攻め続ける日本の原動力となった。これがサッカーであれば、最後は勝ち切るためのパス回しを選択しただろう。もちろん、ルールが違うのだから当然の話。この日の感動は、まさに「ラグビーのルールがもたらした感動」とも言えよう。

 これで日本は予選プール3連勝。そして4トライでボーナスポイントがプラスされ、勝ち点14で再び首位に立った。2試合を残すスコットランドは、最大で勝ち点を15に伸ばす可能性があるため、日本は「まだ何も手にしていない」状態。それでも今は、2002年以来となる、最高に幸せな気分だ。国民の期待がさらに高まるのは間違いないが、今の日本代表であれば、そうした重圧をも力に変えてくれることだろう。来週日曜日のスコットランド戦では、さらに大きな喜びが私たちにもたらされますように。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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