ラグビーのルールがもたらした感動 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月5日)

宇都宮徹壱

日本代表をめぐる、2002年とよく似た状況

サッカーの代表戦でおなじみの豊田スタジアムも、この日はラグビー一色。赤白ボーダーで道はあふれていた 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は14日目。日本代表は予選プール第3戦で、サモア代表を迎えることとなった。日本が先週のアイルランドとの第2戦を終えてから中6日なのに対し、サモアはスコットランド戦から中4日。しかも、格上の相手に歴史的な勝利を挙げた日本とは対照的に、サモアは0−34とティア1(伝統国)との力の差を見せつけられ、さらにロシア戦に続いて退場者を出してしまった。日程面に加え、心理面と戦力面でも、日本にかなりのアドバンテージがあるのは間違いない。

 プールAの順位表を確認しておこう。首位は、すでに3試合を終えているアイルランド。日本に敗れた試合も7点差以内だったので、しっかりボーナスポイントを確保している。加えてスコットランドとロシアには、4トライ以上で勝利しているので、3試合で11ポイント。これを2ポイント差で追う日本は、サモアに勝利すれば再び首位に立てる。とはいえ、最後にスコットランド戦を残していることを考えれば、ここでボーナスポイントを稼いでおきたいところだ。

 前述したとおり、この日のサモア戦に関しては、日本が優位に立っているのは間違いない。しかし、だからこそ選手たちにかかるプレッシャーも、並大抵ものではないはずだ。試合前日から当日にかけて、テレビのスポーツコーナーはラグビー日本代表の話題で一色。これは4年前に南アフリカに勝利した「ブライトンの奇跡」以来の現象だが、選手がダイレクトで過熱報道にさらされるのは今回が初めて。2002年サッカーW杯での日本代表と、状況は非常によく似ている。

「どのチャンネルを点けても、自分たちのことをテレビでやっていて、なんだか怖い気持ちになりましたね」――。元日本代表メンバーのひとりは、当時の国民的熱狂をそのように振り返っていた。確かにホストカントリーは、さまざまな面で優遇される(今大会の日本も日程面でかなり恵まれた)。しかし一方で、かつて経験したことのない国民的な期待が、チームに及ぼす影響についても考える必要があるだろう。「今の日本ならやってくれる」という思いがある一方で、いささかの不安を抱えながら試合会場に向かった。

ペナルティーゴールの応酬となった前半

圧倒的なアウェーの中、応援にやってきたサモアのファン。両頬にはサモアと日本の国旗が描かれている 【宇都宮徹壱】

 サモア戦の会場は、愛知県の豊田スタジアム。J1名古屋グランパスのホームであり、日本代表の試合でも何度か訪れているが、この日ばかりは赤白ボーダーのジャパンのジャージで道は埋め尽くされていた。日本戦を取材するのは3回目だが、試合を重ねるたびに赤白ボーダー比率が上がっているように感じる。一方のサモアは、人口約20万人の小さな島国。サモアのジャージを着たファンも見かけたが、ごくごく少数である。彼らにとっては、完全アウェーでの苦しい戦いとなるのは間違いない。

 この日の日本は、アイルランド戦から3人を入れ替えてきた。堀江翔太とトンプソン・ルークとアマナキ・レレイ・マフィが外れ、坂手淳史とヴィンピー・ファンデルヴァルトとリーチ・マイケルがスタメン出場。ゲームキャプテンは、前の試合から引き続きピーター・ラブスカフニが務める。一方のサモアは出場停止やけが人もいる中、スコットランド戦から6人を変更。豊田自動織機シャトルズに所属するトゥシ・ピシは、ベンチスタートとなったが、選手紹介の際にはスタンドから大歓声が沸き起こった。

 ゲームは序盤から動く。日本は3分と8分にペナルティーのチャンスを得ると、田村優がきっちりポールに通して6点を挙げる。対するサモアも10分と15分、やはりペナルティーゴールを成功させて、6−6のイーブン。それにしてもラグビーのペナルティーには、独特の静寂感がある。サッカーのPKの場合、ゴール裏からのブーイングやキッカーへの声援で実に喧(かまびす)しいが、ラグビーではせいぜい指笛を鳴らす程度。この静寂が、逆にキッカーに精神的な重圧を与えるのかもしれない。

 日本は前半24分にも、ペナルティーゴールから3点を積み重ねるが、そろそろトライがほしいところ。その願いがかなったのは28分。ラックの状態からリーチが奪ったボールは、松島幸太朗を経由して左ラインを走るラファエレ・ティモシーに渡り、そのままトライを決める。コンバージョンも成功させて、一気に10点差。その後、サモアも34分にペナルティーゴールで3点を返し、前半は16−9で終了する。支配率は51:49、テリトリーは56:44。いずれも日本がリードしているが、ほぼ互角の戦いである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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