花園で本領発揮「空飛ぶフィジー人」 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月3日)

宇都宮徹壱

「世界一流のパス回し」で圧倒するフィジー

雨が上がって不思議な静寂に包まれた、試合後の花園。ここを会場に選んで大正解だったと思う 【宇都宮徹壱】

 先制したのはフィジーだった。前半19分、意表を突く小さいキックを11番のウィングが拾い、即座に13番のワイセア・ナヤザレブにパス。受けたナヤザレブは、フリーでトライに成功し、コンバージョンも決まった。その8分後、またもナヤザレブがトライのチャンスを得るが、雨でボールが滑ってキャッチミス。雨天の試合は、こういうアクシデントもあり得るようだ。34分、ジョージアのフルバックがペナルティーゴールを決めて、前半は3−7で終了。およそラグビーとは思えぬロースコアである。

 前半のスタッツを見ると、テリトリーで46:54、支配率で47:53。いずれもフィジーが、わずかながらリードしている。後半に入ると、フィジーのパスワークがさく裂。後半5分と10分に連続トライを挙げ、ボーナスポイントまであと1トライに迫る。対するジョージアも、モールの状態からパワーで押し切り、さらにコンバージョンにも成功してスコアを10−17とした。反撃ムードに意気盛んのジョージア。しかし、フライング・フィジアンの本領発揮はここからであった。

 後半20分、28分、29分、35分と立て続けにトライ。そしてコンバージョンも4つすべて成功し、フィジーが一気にジョージアを突き放す。その原動力となったのは、ジョージアのミルトン・ヘイグHCが言うところの「世界一流のパス回し」。パスの連動性と展開力が素晴らしく、面白いようにジョージア守備陣の背後を突いていく。「あれだけパスを回されると、止めるのが難しい」(ヘイグHC)ということで、ロースコアで始まった試合は、終わってみれば10−45でフィジーの完勝に終わった。

 プール予選3試合目にして、ようやく本来の力を存分に発揮したフィジー。彼らの卓越した技術と攻撃の多様性は、セブンズ(7人制ラグビー)の経験者が多いことと関係しているのではないだろうか。実はフィジーは、リオ五輪から始まったセブンズで金メダルを獲得している。15人制と同じフィールドで、7人が7分ハーフで戦うセブンズは、攻守の切り替えが速い上に得点も入りやすい。フットサル経験者によるサッカー、そしてセブンズ経験者によるラグビー。両者を比較すると、興味深い共通項が見えてくるのかもしれない。

 最後に試合会場の花園ラグビー場について、あらためて触れておきたい。大阪でラグビーW杯を招致するにあたり、国際試合の実績がある長居や吹田ではなく、東大阪の花園を選んだのは大正解だったと思う。確かにキャパシティでは劣るし、屋根もメインスタンドのみ。それでも花園には「ラグビーの聖地」としてのオーラが強く感じられ、サッカー脳の私に不思議な高揚感をもたらしてくれた。この次に花園を訪れるのは、果たしていつになるだろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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