全日本女子が世界に取り残されないために バレーW杯5位から学んだこととは?

田中夕子

前半は負け越し エースも心が折れそうに

大阪でのラスト3戦はいずれも勝利を収め、バレーW杯を5位で終えた全日本女子。東京五輪まであと1年を切り、この大会から見えたものとは? 【写真:坂本清】

 消化不良のまま終わるのか。停滞した空気を払拭(ふっしょく)し、全日本女子がようやくベストゲームができたのは最終戦だった。

 繰り返されるラリーの攻防を制し、オランダに3-1で勝利。ワールドカップ(W杯)大阪ラウンドは3連勝で終え、最終成績は6勝5敗。大会を通し、エースとして攻守にわたり活躍した石井優希が言った。

「大会前半はすごく苦しくて、心が折れそうな時もありました。でも大阪ラウンドで収穫を見つけられた。(最終戦は)集中力も最後まであり、熱い思いを出すことができました」

 その言葉が決して大げさでないほど、選手たちは追い込まれていた。

 なぜなら今回のW杯は五輪出場権がかからない。大会前にすでにセルビア、中国、ブラジル、ロシア、アメリカが東京五輪の出場権を獲得しており、すべてのチームが現状のベストだったとは言い難く、実際に日本が逆転勝利を収めたセルビアも「世界1位」と煽られたが、メンバーを見れば昨秋の世界選手権を制したチームとは全く異なる構成で、個の技術、組織力、全てにおいてレベルが違う。

 最終予選を戦わずに五輪へ臨む日本にとっては、これが最後の大きな国際大会。たとえ相手が若手のセルビアであろうと、全勝で優勝したベストの中国であろうと、東京五輪へつなげる結果と内容を得ることが大きなテーマであるはずだったにもかかわらず、前半の6試合を終えた時点で2勝4敗。現実が重くのしかかっていた。

攻撃面に課題 「S4ローテ」が鬼門に

中田久美監督が大会前に掲げた課題のうち、攻撃力の強化はなかなか実を結ばず 【写真:坂本清】

 大会前に中田久美監督が掲げた課題は3つ。

 どれだけアタック得点を出せるか。ミスを減らせるのか。接戦をいかに勝ち切るか。

 特に攻撃力強化は、中田体制が発足してから常に大きなテーマとして掲げられてきた課題でもある。世界を見渡せば大型化が進み、サーブ力も磨かれ、ブロックとレシーブを含めたディフェンスも、個の勝負ではなくシステム化され、どのコースを塞ぎ、どこを拾うか、と役割が明確にされている。

 近年の世界でのスタイルを見れば、その状況を打破すべく、ポジションに限らずさまざまな場所から複数のスパイカーが一斉に攻撃を仕掛けるのが一般的になりつつある。だが日本も同じスタイルか、といえば、挑戦はしているものの、まだ完成には遠い。

 特に顕著だったのが前半の横浜ラウンドで敗れたロシア、韓国、中国との試合。サーブターゲットを明確にし、日本の攻撃を絞らせた相手に対し、同時攻撃はおろか、トスの上がる場所がほぼ1、2カ所に偏るため、ブロックがそろった状況で攻撃をしなければならない。特に、新鍋理沙がサーブで下がり、セッターが前衛に上がる「S4ローテ」は日本にとって「鬼門」とも言うべきポイントだった。

 ただでさえ前衛の攻撃は2枚。ブロッカーが3枚いることを考えれば、それだけでも攻撃側にとっては不利な状況であり、いかにブロックを分散させるかと考えれば攻撃枚数を増やすしかない。オーソドックスに考えれば、相手は前衛のアウトサイドヒッターをサーブで狙い、攻撃に入るタイミングを遅らせるか、ミドルブロッカーが攻撃に入る動線を消すサーブを打つのは想定内であるため、攻撃枚数を減らさぬよう石井や古賀紗理那、後衛のアウトサイドヒッターが、中央からのバックアタックを打つ準備をして備えてはいた。

 だが、サーブを打った新鍋は基本的にバックアタックへは入らないため、相手ブロッカーはまずバックライトからの攻撃を選択肢から消す。必然的にレフト側への攻撃に警戒が強まり、2枚、3枚と並んだブロックに捕まり、失点が重なる悪循環を招く。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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