釜石で躍動「サッカーっぽい」ウルグアイ  サッカー脳で愉しむラグビーW杯(9月25日)

宇都宮徹壱

釜石での滞在時間は短かったけれど

試合終了を見届けることなくバス乗り場へ。滞在時間は限られていたものの、釜石開催は大成功に終わった 【宇都宮徹壱】

 後半になると、地力で勝るフィジーがトライを重ねてジリジリと追い上げる。しかしスタンドオフ(SO)のジョシュ・マタベシは、コンバージョンやペナルティーのキックでミスを連発。これに対してウルグアイは、後半はトライこそなかったものの、SOのフェリペ・ベルチェシの正確なキックで着実にリードを広げていく。おそらくこの選手、サッカーをやらせてもうまいと思う。そもそもウルグアイの場合、サッカーが国技というお国柄を考えるなら、サッカーから転向した選手も少なくないと見るのが自然だろう。

 ふと、自分がウルグアイに肩入れしていることに気づく。単なる判官びいきではないし、ウルグアイに格別な思い入れがあるわけでもない。私がシンパシーを覚えたのは、そのプレースタイル。球際での勝負強さ、スピードに乗った時の身のこなし、そしてスペースを抜け目なく狙う動き、それらはいずれもウルグアイのサッカーではおなじみのものだ。彼らのラグビーには、サッカーの匂いが濃厚に感じられる。その「サッカーっぽい」プレースタイルが、私のサッカー脳を刺激して止まないのだ。

 その後、後半26分にフィジーがトライに成功するも、またもコンバージョンに失敗して22−27。5点差に詰め寄られたウルグアイは、後半35分にベルチェシがペナルティーゴールを決めて22−30と再び突き放す。そして40分、銅鑼のようなホーンが鳴り響いた。すでに時計の針は16時を回っている。バスの出発時間は30分後。後ろ髪を引かれる思いで記者席を後にする。その後、フィジーがさらに1トライ。だが、土壇場でまたもコンバージョンを決めきれず、27−30で試合終了。格下のウルグアイは、2003年のジョージア以来となるW杯3勝目を挙げた。

 何かと慌ただしかった釜石取材。現地での滞在は4時間15分だったが、十分に「復興支援のW杯」を愉しむことができた。試合自体も非常に白熱した内容であったが、スタジアム周辺のそこかしこで、はちきれんばかりの笑顔が溢れていたことが何より素晴らしかった。新花巻駅までの帰路のオペレーションも申し分なし。滞在時間の短さだけが心残りだったが、それでも今回の釜石開催は大成功だったと言えるだろう。大会後、あらためてこの地を再訪したい──。そう思った観戦者も少なくなかったはずだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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