釜石で躍動「サッカーっぽい」ウルグアイ  サッカー脳で愉しむラグビーW杯(9月25日)

宇都宮徹壱

釜石開催で課題となるアクセスと宿泊

新花巻駅に飾られた、県外からの来場者を歓迎するイラストの数々。ここから釜石へはバスで1時間半 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は6日目。この日は岩手県釜石市にある、釜石鵜住居復興スタジアムにて、フィジー代表対ウルグアイ代表の試合が行われる。カードそのものは、およそ「強豪同士による好カード」とは言い難い。それでもこの試合にニュースバリューが感じられるのは、釜石が国内有数のラグビーどころとして知られ、かつ今大会において東日本大震災からの復興の象徴となっているからだ。ゆえに私も前乗りして、釜石での取材に備えることにした。

 釜石を訪れるにあたり、観戦者がまず考えなければならないのが、スタジアムまでのアクセスである。東京からの場合、東北新幹線で新花巻駅まで行き、そこから釜石線に乗り換えて21駅目の終点が釜石駅。そこからさらに三陸鉄道リアス線に乗って2駅で、最寄り駅の鵜住居駅に到着する。うまく接続できたとしても、5時間半から6時間はかかる。車なら盛岡から1時間半でアクセスできるが、試合当日は一般車の乗り入れが規制されるため、観戦者は必然的に鉄道もしくはシャトルバスを利用することとなる。

 もうひとつの問題が宿泊。釜石市は企業城下町ゆえ、宿泊施設に限りがある。そのため新花巻か盛岡か一関あたりで前泊し、翌日にライナーバスでスタジアムに向かうのが現実的な選択肢となる。私も今回、新花巻駅から車で30分ほど離れた温泉宿に投宿。駅とホテルをつなぐ送迎バスには、外国人の姿も見られた(オーストラリアと南アフリカのジャージを着ていた)。どんなにアクセスが悪かろうとも、まったく言葉が通じなくとも、W杯観戦のためなら何とかしてしまう。そんな彼らのバイタリティーには恐れ入るばかりだ。

 さて、今回の釜石開催に関して留意しなければならないのは「釜石市だけのW杯ではない」ということだ。スタジアムがあるのは釜石市内だが、開催地の名称は「岩手県・釜石市」であり、釜石以外の自治体も大会の恩恵が得られることを目的としている。逆に言えば試合前日と当日、釜石にお金を落としていく観光客は、それほど多くはないということだ。実際、7月27日に日本代表とフィジー代表のテストマッチが行われたときも、試合終了と同時に観客はすぐさま釜石を後にしてしまい、地元の飲食業界を落胆させている。

「格下」ウルグアイがフィジーにリード

フィジー対ウルグアイのキックオフ直前、釜石上空を飛行するブルーインパルス。この日は晴天に恵まれた 【宇都宮徹壱】

 新花巻駅を10時50分に出発したバスは、1時間20分でスタジアム近くの臨時駐車場に到着した。スタジアムまでは徒歩20分くらい。舗装されていない道もあったが、ボランティアスタッフの案内は的確だし、仮設トイレも十分に備えられていたので、道中はストレスをまったく感じなかった。何より、ボランティアの皆さんの笑顔が素晴らしい。「今日はお天気で良かったですね」と声をかけると「釜石を楽しんでいってください!」と返された。ここには4時間しか居られないが、その分、ゲームを存分に楽しむことにしたい。

 キックオフは14時15分。平日昼の開催にも関わらず、ほぼ満席となる1万4025人がスタンドに詰めかけた。メインスタンドから見て左側の仮設スタンドには、フィジーとウルグアイ両国の小旗を持った地元の小学生たちで埋め尽くされ、盛んに歓声を発している。このスタジアムがあった土地には、かつて地元の小中学校があったが、震災による津波ですべてが流されてしまった(登校していた子供たちのほとんどは避難して幸い無事だった)。この地に再び、子供たちの歓声が戻ってきたことに深い感慨を覚える。

 さて、試合である。フィジーはオーストラリアとの初戦に21−39で敗れて、中3日での第2戦。ウルグアイはこれが初戦となる。どちらも「中堅国」のティア2に属しているが、世界ランキングでは、フィジーの10位に対してウルグアイは19位(世界ランキングは9月22日付け)。人口約89万人の小国フィジーが、ラグビーの世界では格上となる。一方のウルグアイは、サッカーの世界では第1回W杯の開催国にして優勝国。実はラグビーも150年もの長い歴史を持ち、ジャージの色もサッカーと同じセレステ(空色)である。

 先制したのは、試合前に「ジンビ」と呼ばれるウォークライを披露していたフィジーだった。開始早々の7分にトライを決めるも、コンバージョンには失敗して5−0。しかしウルグアイも13分にクイックネスを生かしてトライし、さらにコンバージョンも決めて逆転に成功する。その後はフィジーの1トライに対して、ウルグアイは22分と27分に連続トライ、さらに前半終了間際にペナルティーゴールも決めて、24−12でハーフタイムとなった。過去のW杯で2勝しかしていないウルグアイ、大善戦である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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