札幌にイングランドがやって来た! サッカー脳で愉しむラグビーW杯(9月22日)

宇都宮徹壱

半端ない! 海外ラグビーファンのビール消費量

札幌ドームで出会ったイングランドのサポーター。サッカーのW杯に比べて仮装している人は少数派 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は3日目。この日、札幌ドームで開催されるイングランド対トンガの試合を取材するため、前日から札幌に滞在している。

 まずは大会2日目の現地の様子からお伝えすることにしたい。札幌ではこの日、オーストラリア対フィジーが行われており、歓楽街のすすきのではワラビーズ(オーストラリア代表の愛称)のジャージを着たファンの姿をあちこちで目にした。

 この日は、フランス対アルゼンチン(@東京)で好勝負が展開されていたが、一番の注目カードはやはりニュージーランド対南アフリカ(@横浜)。W杯優勝国はニュージーランド、南アフリカ、オーストラリア、そしてイングランドの4カ国のみだが、そのうちの2カ国がいきなり初戦で対戦するのだから、当事者でなくともテンションが上がるのは間違いない。さっそく、すすきのにあるアイリッシュパブに向かうことにした。

 店に到着すると案の定、店内は立錐(りっすい)の余地もないほどの客で埋まっていた。それもほとんどがオーストラリア人。なんとか店内に潜り込んだものの、体格の良い男たちに阻まれて、とてもカウンターまでたどり着くことはできない。仕方がないのでそのままテレビ観戦していると、オージーたちは明らかに南アフリカを応援していることに気がついた。隣国に対するライバル意識はどこも一緒だ。
 
 それにしても、海外のラグビーファンのビール消費量は半端ない。試合中にビールのタンクが追加されると、店内にいた屈強な男たちが軽々とタンクを持ち上げては、リレー方式でカウンターまで運び入れる。その絶妙なチームワークに感心しつつも「ラグビーW杯ではサッカーに比べて6倍のビールが消費される」という報道が、決して誇張ではないかったことを実感する。結局、あまりにも窮屈だったので、前半で退散することにした。

 さて札幌といえば、2002年のサッカーW杯でイングランド対アルゼンチンの会場となったことが思い出される。あの時は「フーリガンが来るのでは?」という憶測が流れ、すすきの界隈の飲食店は戦々恐々としていた。あれから17年が経ち、再び大挙してやってくるイングランドのサポーター。とはいえ、彼らを迎える地元市民は冷静だ。昨今のインバウンドの経験もあるだろうが、サッカーとラグビーのファン気質の違いもまた、少なからぬ要因となっている。

なぜイングランドのラグビーファンは「脱がない」のか?

イングランドのラグビーファンは、サッカーと比べて「真っ当」。写真撮影にも気さくに応じてくれる 【宇都宮徹壱】

 サッカーのみならず、ラグビーの母国でもあるイングランド。サッカーのエンブレムはスリーライオンズだが、ラグビーは真紅の薔薇が左胸に輝く。そしてサポーターの行動様式もまた、サッカーとラグビーとでは大きく異なる。

 サッカーのサポーターは、自らの出身地をプリントしたイングランド国旗をあちこちに貼りまくり、半裸になって腕や肩や胸に描かれたタトゥーを強調し、そしてビールをしこたま飲み干しては大声で歌い続ける。その行動は時に大きく逸脱し、そのたびに開催地の警察が出動するのはおなじみの光景だ。

 ところが札幌ドームにやって来たイングランドのラグビーファンは、まるで別の国の人々のように感じられるくらいに真っ当な人たちである。共通点は、ビールをよく飲むことくらいか(ただし下品な飲み方ではない)。ジャージは脱がないし、大声で歌ったり騒いだりしないし、国旗をベタベタ貼ることもしない。よく「英国ではサッカーファンは労働者階級で、ラグビーファンは中流階級以上」という言説を耳にするが、やはり社会階層の違いが行動様式に反映されているのだろうか。

「実際には、サッカーとラグビーのファンに、明確な階層の違いはないですね。むしろサッカーとラグビー、両方が好きな人のほうが多いと思います」と語るのは、英国のサッカーとラグビーが専門のスポーツライター、島田佳代子さんである。8年間の在英経験がある彼女によれば、ラグビーファンが脱がないのは「ラグビーの大会は涼しい時期に行われるから」。さらに「ラグビーの大会では、周囲を気遣っておとなしくしている人も多いですね」とも教えてくれた。なるほど、実に興味深い指摘である。

 ちなみに島田さんは今回、ラグビー観戦のために家族4人で札幌にやって来たのだが、ご主人は元ラグビー日本代表(キャップ数16)の吉田英之さん。奇しくもトンガ代表を率いるトウタイ・ケフHC(ヘッドコーチ)は、吉田さんがクボタスピアーズでプレーしていた時のチームメートで、今も家族ぐるみで交流があるそうだ。実力的にはエディー・ジョーンズHC率いるイングランドが圧倒的に優勢だが、それだけに今日の試合は家族そろってトンガに声援を送るとのことである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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