「これぞ田中恒成」とは言えぬ防衛戦 スピードへの回帰を果たせなかった理由

船橋真二郎

本人は「コンディション作りが…」

試合後、山中慎介氏(元WBC世界バンタム級王者)と握手をする田中。ただ、内容は「最悪」だと振り返っている 【写真は共同】

 それでは、なぜイメージ通りにいかなかったのか。

 挑戦者のゴンサレスがうまく戦った。それもあっただろう。田中自身は「思うように体が動かなかった。反応も悪かったですね」と、自分のコンディションに一因を求めた。

「正直、コンディション作りがうまくいかなかったですね。今までコンディションをうまく作れないで試合に臨むことは多々あったので、その課題をもうそろそろ何とかしないとレベルアップできないな、と……」

 田中のフィジカル面を預かり、コンディショニングについてもアドバイスをしている河合貞利フィジカルトレーナーが試合前、田中の減量について、こう話していた。

「恒成の体は今、フライ級のリミットぎりぎりのところにいるので、決してラクな減量にはならないですが、どれだけ自分を追い込んで計画的に減量できるか。どこかで帳尻を合わせるようなことをやってしまえば、その分、苦しくなるし、それで本番の出来も決まってくるはずです」

人としての気質すら、コントロールできるか

 畑中清詞・畑中ジム会長が試合後、「フライは次で最後」と明言したように階級を上げることはすでに視野に入ってきている。

 それでも田中が口にした「コンディション作りがうまくいかなかった」ということが、もし、河合トレーナーが懸念した、自分を追い込んで計画的に減量できなかった、ということであったとしたら――。階級を上げることで解消する話ではないのだろう。

 最後に再び試合前の河合トレーナーの話。

「恒成というのは、僕が例えるのは“ウサギとカメ"のウサギ。気分にムラがあるところがあるといえばあって、乗れば、すごく頑張るし、乗らなければ、やらないようなところがあるので。僕が今回、彼に与えた課題はカメであること。決めたことを確実に淡々とやり遂げなさい、と。頭のいい子なので、ちゃんとプランニングができるんですけど、ウサギ性格の子は、どうしても走っては休んでしまうクセがある。これはある意味、ボクサーとか、競技者どうのじゃなくて、人としての気質の問題。その気質すら、彼自身がコントロールできるかなんです」

 ボクシングという競技は繊細だ。長い時間をかけ、どれだけいい準備を積み重ねてきたとしても、減量の成否、そして試合までのリカバリー次第ですべてが水泡に帰してしまうことがある。もしも、準備段階の問題でどこか突き抜けきれないのだとしたら――。田中の才能に大きな期待を寄せる者として、もったいないことだと思う。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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