大谷翔平が神に迫った? ボストンで放った「人間離れな」一撃

丹羽政善
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提供:日本航空

502フィートを飛ばす条件

画像下部の赤く塗られている席が「The Lone Red Seat」。ホームプレートからは約502フィート(約153メートル)飛ばさないと届かない 【Getty Images】

 そもそも、人間があそこまで飛ばせるのか、という検証がかつて行われたことがある。

 その前に事実関係を整理すると、ウィリアムズが本塁打を記録した翌日の『ボストン・グローブ』紙の一面に、穴の空いた帽子を手にしたジョセフ・ボーチャーという男性の写真が載っている。

 ボーシャーさんが例の席に座っていたところ、ウィリアムズの打球が飛んできて、頭に当たったという。試合後には取材に応じ、「全く見えなかった。いったい、どれだけ遠くに座れば、この球場は安全なんだ?」と話したとされる。ボーシャーさんはボールが当たった後で救護室に向かい、ラルフ・マッカーシーという医者の治療を受けたという記録も残っている。その人間離れした飛距離が話題になると、最初は450フィート(約137メートル)と報じられたが、再計測の結果、後に502フィート(約153メートル)と訂正された。

 では、あそこまで飛ばすとしたら、どんな条件が必要なのか。

 2015年、『ボストン・グローブ』紙のアレックス・スピアー記者は7月13日付の紙面で物理学者のアラン・ネイサンとともに分析を試み、まずは、当日の風に注目した。実は、先程触れた新聞には、同じく一面に、ニューイングランド地方(ボストンも含まれる)を嵐が襲い、「2万5000世帯の電話が不通になったまま」というニュースが載っている。スピアー記者らが当日の気象状況を確認したところ、やはり、かなり強い風が吹いていたそうだ。

 さらに詳しく調べ、試合中の風向き及び風速は、「ライト方向に9.4メートル」と推測した。つまり、ウィリアムズのホームランは相当な追い風に乗った、ということになる。

 そして、落下地点そのものは502フィートだが、そのまま地面に落ちたと仮定すれば、その距離は約535フィート(約163メートル)だったそう。風の強さなどから逆算した結果、ウィリアムズの打球は、初速が約115マイル(約185キロ)、打球角度は約30度だったとネイサンは弾き出している。

 初速115マイル、打球角度30度の打球そのものは多くはないが、ありえない数字でもない。ただ、それだけでは535フィートを飛ばすことは不可能。もし風がなければ、ウィリアムズの本塁打の飛距離は440フィート(約134メートル)程度だったとネイサンは算出している。やはり、10メートル近い風が加わってこそ、あの飛距離となる。

もし、あの時ウィリアムズがいたら…?

大谷が打撃練習で放った一撃は現地記者にも驚きを与え、速報ツイートもつぶやかれた 【Getty Images】

 以来、ウィリアムズに迫る選手が現れなかったのは、まさにその風が一因だった可能性がある。1980年代後半のスタンド増築により風が遮られ、もはや10メートル近い風がフェンウェイ・パークのライト方向に吹くことはないそうだ。

 それはすなわち、今後もウィリアムズの飛距離が最長であり続ける可能性が高い、ということを意味するが、大谷は今回、それが絶対ではないことを示した。だからこそ、かつてその分析を試みたスピアー記者は、大谷の一発を目の当たりにして、すばやく反応。たかが打撃練習の一打を速報したのである。
 ちなみに、レッドソックスのデータ担当者が、大谷の打球が地面に落下していたら、504フィート(約154メートル)だったと早速計算していた。打撃練習時の風速はわからないが、試合開始時はライトへ5.8メートルの風が吹いていた。ということは、あの時の大谷の打球初速は何マイルで、打球角度は何度だったのか?

 後日、改めて紹介したい。

2度の三冠王に輝くなど、打撃を極めたウィリアムズ。「最後の4割打者」としても知られる希代のスラッガーが大谷と邂逅(かいこう)したら、どんな言葉をかけるのか…… 【Getty Images】

 それにしてももし、あそこにウィリアムズが居合わせたら、彼は大谷にどんな声をかけたのだろう。

 いや、やはり何も言わずに背を向けたのか。かつて、ジョン・アップダイクが、ウィリアムズについてこう評したように。

「神は、手紙に返事を書かない」

JALは、日米間の渡航サポートを通じて、世界を舞台に挑戦を続ける大谷選手を応援しています

【(C)Japan Airlines】

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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