連載:スポーツマネジャーという仕事

東京パラ、競技日程の調整は至難の業? ボッチャ担当者が明かす決定までの裏側

構成:瀬長あすか
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会で活躍する「スポーツマネジャー」。各競技の運営責任者として国内・国際競技連盟等との調整役を務め、大会を成功に導く重要な責務を担っている。

 パラリンピックは8月13日に競技スケジュールの詳細が発表され、22日にはチケット第一次抽選受付が始まった。ボッチャを担当する齋藤保将さんにとって、この競技スケジュールの調整が何よりもの難題だったという。果たしてどのようにして競技日程は決まったのか。「競技スケジュールの調整はまだ終わっていない」と明かすその意味とは? 齋藤さんが競技スケジュール決定の裏側を教えてくれた。

日程を1日増やした理由

競技スケジュールの調整に一番苦労したという齋藤さん(右端)。交渉を何度も重ねて決定までこぎつけた 【Photo by Tokyo 2020】

 8月13日に東京2020パラリンピックの競技スケジュールと観戦チケット詳細の発表がありました。大会中盤から終盤(2020年8月29日〜9月5日)にかけて有明体操競技場で行われるボッチャは、個人戦4イベントと団体戦3イベントが実施されます。なかでもリオ2016大会で日本が銀メダルを獲得したチーム戦BC1/BC2は最も注目度が高く、決勝は9月5日に行われます。1年後にセンターコートで行われる最高峰の一戦を満員の観客が見守り、勝負の行方に一喜一憂する……そんな光景を見るためにも、残された期間、最善の準備を続けていく覚悟です。

 東京2020大会はリオ2016大会より1日多い12日間の競技日程で行われますが、ボッチャの日程もリオ2016大会の7日間から8日間に増えています。参加選手数の増加により、コート数は変わらないのに試合数がぐんと増えることが要因ですが、実は2016年7月のスポーツマネジャー着任時から一番苦労したタスクが、この競技スケジュールの調整です。

 決定までどんなプロセスを踏んだかというと、まず国際ボッチャ競技連盟(BISFed)から過去の大会をベースとしたたたき台が提示され、それを詰めていくのですが、当初は従来通り7日間で実施する想定で動いていました。ですが、2018年3月に日本ボッチャ協会として三重・伊勢市でBISFed公認の国際大会(アジア・オセアニア地区ボッチャオープン)を開催した際に、想定以上に競技スケジュールに余裕がなく、BISFedと一緒にプランを練り直した経験がありました。それをきっかけに「やはり東京2020パラリンピックもプラン変更を掛け合ってみよう」と。それで、大会後からスケジュールを整理し直し、再度調整したわけですが、なかなか一筋縄にはいきません。最後は国際パラリンピック委員会(IPC)に直談判し、ようやく8日間で実施することが決まりました。それがちょうど1年前のことですね。

「まるでパズル」想定を重ねて日程調整

 ボッチャは、リオ2016大会終了後からタイムアウト等の規則の変更がありました。この規則変更が原因だと思うのですが、どうも最近は試合時間が長い、そう思ってあらためて最近の国際大会の試合時間を調べてみたら、平均的に競技時間が長くなっていたんです。ボッチャは1試合あたり1時間から1時間半を要すものなのですが、例えばチーム戦BC1/BC2は長くなりがちだけど、ペア戦BC4はもう少し早く終わるだろうとか、そういう点を加味してスケジュールを見直し、最終的にできるだけ時間内に収まるように組み立てます。他にも、もし日本がメダルを獲得したらメディアが殺到し、メダルセレモニーのブリーフィングを始める時間も押すだろうという計算もしたりして……まるでパズルのようですよ。

 実は、細部までこだわっているのには理由があります。去年の秋、ボッチャが東京2020大会から新たに各国・地域の放送権者(ライツホルダー)向けにライブ映像を提供(※)する競技の対象となり、タイブレーク(延長)が続いて試合が押してしまうようなことがあると中継に大きな影響が出てしまうためです。日本代表が勝ち上がっていけば、テレビで扱われる可能性も高くなります。ですから、競技運営する側としては、最もリスクのないスケジュールにしておかなければならないというわけです。

 もちろん、これはうれしい悲鳴です。テレビ放映でボッチャが注目を浴びることは喜ばしいことですし、多くの人に応援してもらうなかでプレーすることは、何より選手自身が望んでいるからです。

※各国・地域において中継を行うか否かについては、各国・地域の放送権者が決定する。

東京パラがボッチャ興行の成功事例となるために

メダル獲得の場合はスケジュールが押すことも。そうした想定も踏まえて競技スケジュールの調整が行われた 【写真:アフロスポーツ】

 8月22日には観戦チケットの販売も始まりました。ボッチャの最終的な観客席数やチケット販売枚数は現在調整中ですが、競技会場となる有明体操競技場の収容人数は1万2000人となっています(実際にはメディア席などを差し引くことになるため、1万2000人よりは少なくなる見込み)。実は、過去の大会を見てみると、直近のリオ2016大会では9000人、ボッチャの強豪国・イギリスで行われた2012年のロンドン大会も5000人だったので、多くの議論が飛び交いました。かなり大きなキャパシティーですが、小中学生や特別支援学校の子どもたちの来場を期待しています。加えて、チケットの値段もファミリーや小中学生が足を運びやすい価格設定になっています。
 平日はほぼ夏休み期間ですし、全てのセッションでチケットが売り切れ、さらに言えばそのチケットを手に必ず会場に足を運んでいただけたらと願っています。席種は2種類ありますが、会場には大型スクリーンがセットされる予定で、コートから遠いシートでもボールの位置や戦況、選手の表情までしっかり楽しめるようになっています。スポーツプレゼンテーション(会場内の演出)を担当するチームには、新しい演出や観客が楽しめるツールの導入も検討してもらっているので、ぜひ会場に来てもらえたらうれしいです。同時に、日本でボッチャはこれだけ人気があり、これだけお客さんが入るんだと、世界にアピールしたいですね。

 泣いても笑ってもあと1年です。今、私たちが準備している東京2020大会の競技運営がボッチャ興行の成功事例となり、より良い形で2024年のパリ大会以降に引き継がれるといいなと思っています。

プロフィール

齋藤 保将(さいとう やすまさ)
埼玉県在住。大学卒業後、当時勤めていた特別支援学校で、授業で取り組んでいたボッチャを知る。以後徐々に本格的に競技に関わるようになり、1999年には日本選手団コーチとして国際大会に初帯同する。2007年には埼玉県障害者ボッチャ協会(現埼玉県ボッチャ協会)の設立に関わり、14年からは日本ボッチャ協会理事として大会運営と審判統括を担当。16年7月より東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のボッチャ競技スポーツマネジャーに就任する。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント