上山友裕が教えるパラアーチェリーの心技 選手の緊迫感が伝わる極限の“一本勝負”
パラアーチェリーのリカーブでパラリンピック内定を決めた上山が競技の観戦ポイントを語った 【写真:C-NAPS編集部】
そんな上山のプレーの最大の特徴は「中心を射抜く技術」。高校時代にアーチェリーに出会い、大学のアーチェリー部で研さんしたその技術はまさに一級品だ。社会人1年目に原因不明の両下肢機能障がいによって足がまひして車いす生活を余儀なくされたが、その後も競技を継続。たゆまぬ努力を続けたかいもあり、車いすになった今でも技術はさび付くどころか更なる進化を遂げている。そんな上山にパラアーチェリー観戦の注目ポイントやパラリンピックにかける思いを聞いた。
アーチェリーのルールは五輪もパラリンピックも同じ
パラアーチェリーに関しては障がいの程度によってクラスが分かれます。W1(四肢に障がいがあり、車いすを使用)、W2(下半身の障がいにより車いすを使用)、ST(立ち、またはいすに座って競技)とありますが、W2とSTは一緒のカテゴリーです。なので、僕は立ってプレーする選手とも競い合っています。
また、パラアーチェリーでは手足に運動機能の障害があるなど、さまざまな身体的な特徴を持った選手が混在しています。自身の障がいと向き合いながらプレーする必要があるので、選手によっては脚や口など動く部分だけで矢を射るんです。各選手が工夫しながら違うスタイルでプレーしているのは、パラアーチェリーだからこその魅力ですね。そうした個性に注目して観戦してもらえるとうれしいです。
五輪もパラリンピックもルールが同じアーチェリーは、一本勝負の緊迫感がしびれる競技だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
5セット終了した時点で同点の場合は、「シュートオフ」というサッカーの「PK」に似た方法が採用されていますが、これがまさに“一本勝負”。互いに一本ずつ打ち合い、その点数で勝敗が決まります。もし1本目がど真ん中の10点ずつであれば、もう一度やり直し。2本目は同じ10点でも真ん中の「+」マークからから距離を測り、10点同士でも中心に近い方が勝者になります。
実は、「シュートオフ」になることは結構あって、僕も世界選手権ではミックスと個人で3回は経験していますね。勝負を分けるのは本当にわずかな差で、メンタルはもちろんですが、その時に風が吹くか吹かないかという「運」も絡んでくるんです。なので、予選1位の選手が優勝することは、パラアーチェリーにおいては珍しいと言えます。むしろ一回戦で負けることもあるくらいです。そうした勝負の分かれ目に注目していただけると、観戦がより面白くなると思います。
また、パラアーチェリーは試合展開の早さが特徴の競技でもあります。競技によっては試合時間が長く、観戦中にボーッとしてしまうことがあるかもしれませんが、パラアーチェリーは息つく暇もありません。最大で15分くらいのスピード感で試合が展開されるので、集中して観戦できます。矢が的を射抜く一瞬一瞬を「選手と同じ緊迫感」で見るのは、サッカーの「PK」のようなドキドキ感がありますね。とくに応援している選手だと、見ている方も気持ちがこもるはずです。