連載:真夏の日本一はどう決めるべき? 現場からの生の声

迅速に動きたくても…高体連が抱える事情 インターハイは「自由度がなく難しい」

松尾祐希

地元高校との新たな取り組みを行った京都橘

運営側を中心とし、希望する出場校には練習試合のマッチメークを行う試みが実施された 【松尾祐希】

 4強入りを果たした京都橘は、帯同していたBチームと地元の高校で練習試合を実施したという。その意義について、米澤一成監督はこう話す。

「地元の高校生も試合を見た分だけ、サッカーをやりたいですよね。それでインターハイの出場チームと戦えたら、彼らもうれしいじゃないですか。毎年3月に行う沖縄招待大会がそういう形なんですよ。過密日程になっているので、Aチームの選手を出すことは難しいですけれど、地元の高校生には代表校と試合をやらせてあげたい。全国大会に出たチームと試合をすれば、彼らもまた変わっていくし、日本のサッカー界も活性化すると思います。インターハイでその地域に滞在させてもらえるのをプラスに考えて、そういうのも仕組みとしてはありですよね」

 今大会は沖縄開催となり、各チームは飛行機で移動を行った。ほとんどのチームが決勝の翌日に飛行機を抑えており、敗退した時点でチケットを捨てて新たな航空券を入手するのは簡単ではない。夏休みのハイシーズンでは再度予約を取るのは難しく、出費もかさむ。

 そこで今回は運営側が中心となって、希望する出場校には練習試合のマッチメークを行う試みを実施していた。初戦で敗退した四日市中央工と松本国際は、2日目の午後に練習試合を実施。大会を終えても強化が行えるのは、今までにない面白い取り組みだった。

 そうした取り組みをさらに発展させ、地元の高校が何らかの形で出場校とトレーニングマッチや大会ができるようになれば、開催した地域にとっても大きな意味が出てくる。開催地を持ち回りにすれば、さまざまな地域が全国トップレベルのチームと戦う機会に恵まれることになり、2種年代の強化にもつながるはずだ。

 インターハイの仕組みが変えられないのであれば、高野連(全国高校野球連盟)にならって「高サ連」を作る意見もあった。少々過激に思えるが、果たしてその案がベストなのか。仮に新たな大会を新設したとしても、夏の日本一を競う大会として本当の意味で定着するのか。実際にプレミアリーグはユースと高体連の間で真の日本一を競う大会として創設されたが、周知されるまでに多くの時間を要した。

選手たちの「インターハイ」に懸ける思い

「昨年の悔しさがあったから優勝できた」と口にしていた初優勝、桐光学園の選手たち 【松尾祐希】

 また、忘れてはいけないのは、選手たちがインターハイに懸けている点だ。桐光学園は昨夏に準優勝を収めたが、ラストプレーで同点に追い付かれて日本一を逃した。選手たちは口々に「昨年の悔しさがあったから、今年は優勝できた」と話しており、「インターハイ」がひとつの指標になっているのも確かだ。

 そうした事例を考えても、長年を掛けて築き上げたインターハイをリセットしてしまうのは、あまりにももったいない。今与えられた範囲で何ができるのか。京都橘の米澤監督は「与えられた環境でやる意味はある」と話した。

「アンダーカテゴリーの代表で戦うときはもっと厳しい試合もある。その時に俺は沖縄の暑い中で試合をやったなと思い出せれば、将来につながってくる。だから、僕はインターハイって悪くないなと思います。五輪と同じで他の競技もある。うちであれば、『バレーがベスト8に入ったので、俺らもやろうぜ』という思いがあったり、学校単位での刺激にもなる。高体連に所属している以上は、みんなで一緒にやる大会があってもいい。子供たちの成長はそこにある。チームワークやクラブワーク、地元・京都への頑張れという思い。それも価値だと思います」(米澤監督)

 金銭的にも厳しく、すぐに高体連の枠組みで改革するのは難しいかもしれない。だが、選手たちの体のことを一番に考えなければいけない。多くの経験を積み、多くの物事に触れる機会も選手たちの心を育む上で大きな意味がある。変更できるレギュレーションから手を付け、最善の形で大会を開催するスキームができれば、インターハイの価値は今以上に上がるはずだ。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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