連載:真夏の日本一はどう決めるべき? 現場からの生の声

迅速に動きたくても…高体連が抱える事情 インターハイは「自由度がなく難しい」

松尾祐希

優勝校の監督も指摘する「選手の疲労度」

容赦ない沖縄の日差しの中、グラウンドで戦う選手たち。試合をこなせばこなすほど、疲労度も大きかった 【松尾祐希】

 ギラギラと照りつける太陽に、抜けるような青い空。沖縄の日差しは容赦なかった。日陰に入れば、時折入る海風もあって心地良いが、日なたに出れば、一瞬にして汗が吹き出す。グラウンドで戦う選手たちの体感温度はそれ以上だったに違いない。

 全国高校総体(インターハイ)の男子サッカー競技は、桐光学園の初優勝で幕を閉じた。

 7日間で最大6試合をこなす過酷な大会について、今回の連載では各高校の指導者にインターハイのあり方や大会フォーマットを軸に議論をいただいた。休養日を1日挟んで3連戦を2度行う過密日程、30度を超える場所での日中開催、17名しか登録できないメンバーリストの問題。「身体への負担が大きい」と各指揮官が警鐘を鳴らした通り、選手たちのコンディションに与える影響はあまりにも大きかった。

 優勝候補と目されていたプレミアリーグEAST(高円宮杯JFA U-18プレミアリーグ)の青森山田は3回戦で敗退。1回戦で一昨年の高校サッカー選手権覇者である前橋育英、2回戦で同WESTの大津に勝利したものの、3回戦で北越にPK負けを喫した。強豪校との連戦は選手たちを想像以上に疲弊させ、疲労度が最も大きくなるであろう3連戦目に本来の力を出せない要因となった。実際に初戦では熱中症になる選手もおり、常に万全の体制で試合に挑めたとは言い難い。

 一方、ファイナリストの桐光学園と富山第一はシードとなり、2回戦から登場した。勝ち進む上でこれが大きなアドバンテージになったのは確かで、体力の消耗が他の高校と比べて少なかった。とはいえ、6日間で5試合の連戦を戦い切るのは容易ではない。優勝した桐光学園は2、3回戦は12時キックオフ、続く準々決勝と準決勝は9時半キックオフで戦っており、明らかに選手たちのダメージは蓄積していた。

 実際に桐光学園の鈴木勝大監督も「(準優勝を収めた昨年度は)三重の高体連の先生が僕たちをリスペクトして、よくしてくれたんです。去年の三重の高体連の先生たちの立ち居振る舞いは本当に僕も感激を受けました。(今回も)沖縄の先生にも感謝の気持ちでいっぱいです」と運営側への感謝を忘れてはいないが、同時に夏の難しさがあったと話す。

「運営面などいろいろな問題がありますが、正直12時開始の試合はきつい。やっぱり体力を回復するには時間だけではなくて、キックオフ時間の面もあると思う。そこは考えていただく余地があるのかなと。選手ありきの大会にしていただいているけれど、疲労度はかなり大きい。疲労が影響して、敗れていったチームもある。本当にレベルの高い大会を追求するのであれば、そこも配慮してもらえるとありがたいです」

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予算の範囲内でさまざまな努力を行っていたが……

前後半の折り返し時点で3分間ベンチで休む「クーリングブレイク」を導入するなど、さまざまな対策を行っていたが…… 【松尾祐希】

 もちろん、運営側も予算の範囲内でさまざまな努力を行っていた。昨年同様に大型の送風機などを用意。万が一の事態が発生した場合に備え、迅速な対応を取るための救護体制を取った。また、試合中に関しても、今年度は前後半の折り返し時点(35分ハーフのため17分前後)で、3分間ベンチで休養するクーリングブレイクを必須とした。WBGT(暑さ指数)の値が31.5度を超えた場合は前半と後半の終盤に飲水タイムを設けた。また、キックオフ前やハーフタイムに判断するのではなく、試合中の状況次第で臨機応変に対応。その甲斐あって、選手、運営スタッフ、観客などで体調を崩した人は数名いたものの、大きな事故は発生せずに大会を終えられた。

 目立ったアクシデントもなく、閉幕した今回のインターハイだが、今後はどのような形で開催すべきなのだろうか。決勝戦終了後に全国高体連サッカー専門部長・滝本寛氏に話をうかがった。各校の指導者たちが提言した登録人数や日程の問題について、迅速に動きたくても改革できない現状があると話す。

「(サッカー専門部に)自由度がないんです。沖縄県で開催することで、いろいろな市や町がお金を出してくれています。支出をなるべく抑えるように、と高体連全体から通達されている側面もある。今は(運営費が)高すぎるからもっと安くしましょうと。今は暑熱対策でお金がかかってしまう。もし登録人数を増やすとなれば、チーム単位では1人でも、全出場校となると52人増えることになる。そういう意味でも、インターハイはなかなか難しいんです」

 登録メンバーを17人から18人に1人増やすだけでも、全体的に見ると52名の選手が増えることになる。そうなれば、それだけ各自治体の負担が大きくなるのは想像にたやすい。また、日程面に関しても、現状ではすぐに変更するのは難しいという。

「本当は規則で大会を4日間でやらなければいけない。安全面を含めて期間は伸ばしてはいますが、どうしても連戦になってしまう。だから、35分ハーフでやるしかない部分がある。1つ変えるとしても、いろいろなハードルがあるのが現実ですが、われわれも何が大事なのかは重々承知しています」

 登録人数が増え、会期が伸びれば、各市区町村だけではなく、学校側の金銭的な負担も大きくなる。潤沢に予算を確保できない公立高校の目線でいけば、これ以上の負担が難しいという声があるのも事実だ。

 また、忘れてはならないのが、インターハイの開催によって地元の高校生が協力しているという点である。彼らは夏休みの期間中にさまざまな形で運営に携わっている。となると、大会期間中、サッカー部に所属する生徒たちは練習を行えない。そうした協力があって、大会が成り立っているのだ。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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