連載:真夏の日本一はどう決めるべき? 現場からの生の声

小嶺監督は過酷な総体の現状をどう見る? 「議論は大事。知恵と工夫が出てくる」

松尾祐希

御年74歳を迎えた高校サッカー界の重鎮、小嶺監督はインターハイの現状をどのように見ているのか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 前橋育英の山田耕介監督、青森山田の黒田剛監督、東福岡の志波芳則総監督。高校サッカーを代表する名将たちは口々に真夏に行われるインターハイの在り方に警鐘を鳴らした。

 開催地、通常より10分短い35分ハーフの試合時間、1週間で6試合を実施するスケジュール、17名しかエントリーできない登録人数の問題。それぞれに語っていただいた改善策は、どれもプレーヤーズファーストの視点で理に適う案だった。

 ただ、指揮官たちが一様に口にしたのは、議論する場が確保できていない問題だ。全国高等学校体育連盟(高体連)に残って変革を進めるにせよ、高校野球を取り仕切る高野連(日本高等学校野球連盟)を参考に高サ連を作って独自に改革を進めたとしても、意見を取りまとめる組織が成熟していなければ、先には進めない。

 連載4回目の今回は御年74歳を迎えた高校サッカー界の重鎮、長崎総合科学大附の小嶺忠敏監督に話をうかがった。インターハイの改革案だけではなく、議論する場を作り上げる方法論も含めて、いかにして見直しを図ればいいのか。50年以上高校サッカーに携わる“小嶺先生”の言葉には、ヒントが多く隠されていた。

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「エントリー人数を増やすのは、すぐにできる」

――インターハイの酷暑や過密日程が問題になっています。小嶺先生は現状をどのように見られていますか?

 本来なら40分ハーフでやるべき。35分ハーフだと時間が短いので、アクシデント的な番狂わせがある。なので、休養日を増やすなど、日程は見直したいよね。ただ、その辺を考えてほしいけれど、1週間という日程の範囲に収まらなくなる。となると、各地域で予選をやって参加校数を減らす必要が出てくるよね。

――東福岡の志波芳則総監督は、開会式をなくして試合日程を1日伸ばす案を提案されていました。

 五輪もそうだけれど、全員が開会式に出ていない。だから、サッカー競技だけ1、2日は早く始めてもいいと思います。
――登録人数も17名しかないので、選手への負担が大きくなります。

 エントリーの人数を増やすのは、すぐにできる。やらなきゃいかん。

――今は1都道府県開催ではないので、チームの宿泊先が足りなくなる心配もありません。

 そうそう。だから、できるはずなんだけどね。登録人数は25人ぐらいにしたいけれど、最低でも20人にはしないといけない。

 九州新人大会や県のインターハイ予選は20人なんですよ。でも、インターハイだけは17人。理由は同時期に多くの人が泊まるので、宿泊施設の問題なのかもしれないけれど、(ルールが決まった頃とは違って)今はいっぱい宿があるから大丈夫。

「いろいろな人たちの話を聞くと、知恵と工夫が出てくる」

数々のタイトルを獲得した国見時代は、校長として学校の運営会議に“逆の立場”のメンバーを加えていたと言う 【写真:アフロスポーツ】

――また、インターハイは7日間しか会期がないので、天候のアクシデントによっては大会が打ち切りになってしまいます。インターハイのレギュレーションを変えるには、高体連以外の組織を作って動くこともひとつの案だと思います。

 高体連から脱退してもいい気がするね。別で大会をやればいいわけで、他競技に合わせてやる必要があるのかなと。高等学校体育連盟という肩書きで大会をするのか、選手のために新しい大会を作るのか。高野連は規則に細かいところがあるけれど、サッカーも別日程で同様の大会をやってもいいかもしれないね。

 高体連のサッカー専門委員会は、全体の会議で現状の問題点について発言していないのかと疑問に感じる。例えば、九州新人大会はかなりの歴史があるんだけれど、なぜ大会ができたのかというと、かつて九州がサッカーのレベルが一番低かったから。なんとかしたいと思い、最初は3校でのリーグ戦を春休みにやるようになったんです。以降は参加校数が徐々に増えて、10チームぐらいになった。そうしたら、九州新人大会を作ったらどうですかという話に発展したけれど、高体連の許可が出なかったから、九州サッカー協会と話をして、そこの主催でやるようになった。

 ただ、各チームの遠征費は自己負担。沖縄は遠征費を自己負担できなかったので大会に来られなかったけれど、九州各県の代表1チームに加えて開催県の2位が参加する形で8チームの大会としてスタートさせた。ずっと大会をやっていくと、10年後ぐらいに高体連から許可が出て、沖縄も含めて各県2チームの16チームで大会をやるようになった。当初はトーナメント戦でやっていたけれど、レギュレーションがもったいないと感じていたので4チームのグループリーグをやろうと。最初は日程に問題があって、変則的なリーグ戦にしたけれどね。そういう意味でいろいろな人たちの話を聞いて動くと、知恵と工夫が出てくる。インターハイもそういうこと考えてほしい。

――高野連のような新たな組織を作るにしても、インターハイの在り方を見直すにしても、議論をする場を作るのは必要ですよね。

 全国大会を指揮した経験がある人たちを集めて、語り合った方がいいね。そういう現場の人は本当に日本の将来を見据えているから。チームを指揮したことがない上の人たちを集めても意味がない。実際の問題を見ていないから、ラクな方向に話がいってしまう。

 帝京で指導をしていた古沼(貞雄)先生なども含めて場を持てれば、すごいアイデアが出ると思うんだよ。そこでアイデアが出たら、完成させるためにどうやるかが大事。上から言われるから、この案はできないですという話になりやすいから、方向性を出せば、実行するためにどうするかを話せばいい。参加校数を絞るのか、それとも日程を考えるのか、暑さが厳しくない別の場所で開催するのか。試合のスタートも暑いから朝9時半と夕方4時ぐらいに分けてやれるわけで、休養日を1、2日取れば、キックオフ時間がバラついて休養時間が変わる問題も関係なくなる。

 本当に発展策を考える人を中に入れないと。僕が国見で校長をやっている時の学校運営に関する会議で、自分とは逆の立場にある(学校の)運営委員会側の人を3名ぐらい参加者に入れたんです。皆さん思い切って意見を言ってくれと。ただ、「決まったことに反対してはいけない」「後から俺はこう話したとかは言ってはいけない」「言いたいことはここで伝えなさい」というルールを作りました。すると、意見が出て、自分でも面白いなと感じたけれど、会議で話を聞くと、「待て、俺の方向が正しいのか?」と思うようになった。そして、出てきた意見に対して、考えを変えようというのが何回かあるんですよ。だから、議論は大事。意見が出て議題に対しての理解が深まる。周りは本当に面白いアイデアを出すんですよ(笑)。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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