プロ野球OBが語るトレードの舞台裏 ドタバタ移動に「怪文書」も!?

ベースボール・タイムズ

トレード新時代が到来中!?

今季は多くのトレードが行われたが、その中でもモヤ(中央)は外国人選手の金銭トレードで、珍しいケースと言える 【写真は共同】

 トレード市場が活発だ。オフの間に3件、開幕直後に1件が成立してからしばらくは音沙汰がなかったが、交流戦明けの6月末から吉川光夫、宇佐見真吾(巨人)と鍵谷陽平、藤岡貴裕(北海道日本ハム)に始まり、松葉貴大、武田健吾(オリックス)と松井雅人、松井佑介(中日)の2対2に加え、金銭でモヤ(中日)がオリックスへ、さらに下水流昂(広島)と三好匠(東北楽天)、石崎剛(阪神)と高野圭佑(ロッテ)、和田恋(巨人)と古川侑利(東北楽天)と連日のように「トレード決定」のニュースが流れた。
 この風潮は、今年に限ったことではない。ひと昔前まではトレードに対してネガティブなイメージを持たれることが多かった日本球界だが、トレードされた選手が移籍先で活躍。成功するパターンが増え、同時にパ・リーグ人気の高まりによってセ・パのリーグ間、さらには12球団間の格差がなくなってきたことで、トレード市場はより明るく、活気あふれるものになってきた。

 この“トレード新時代”の到来を、現役時代にトレードを経験した中根仁氏、西山秀二氏の2人もポジティブに捉えている。「昔と比べてトレードのイメージがかなり良くなったし、どうしてもチームの中でポジションが重なってしまうことはある。余っている選手はいっぱいいるでしょう」と中根氏。「昔とは随分、時代が変わったね」と目を細める西山氏は、「今はどこの球団でも待遇がいい。球場も綺麗で、ファンの人気も高い。活躍できればどこの球団でもいいというようなドライな選手も多くなった」と解説する。

正直に言えばチャンスだったトレード

 とは言いつつも、突然のトレード通告は、当の選手たちにとってショッキングであることに違いはない。そしてシーズン途中のトレードのあわただしさは、今も昔も同じだ。1987年、高卒2年目のシーズン途中に南海から広島へトレード移籍した西山氏は「2日後にはカープのユニホームを着て試合に出たよ」と当時を振り返る。

「朝でしたね。2軍の遠征で名古屋にいた時。急に呼ばれて『トレードや』と……」。すぐに荷物をまとめて南海の球団事務所のある大阪へ。あいさつを終えると、再び新幹線に乗り、今度は広島へ。そこで手続きを済ませると、ひとまず自宅のある大阪に戻ったのも束の間、すぐに広島の2軍に合流するため遠征先の鳥取へ移動。次の日の試合に出場したという。

「ユニフォームはもうできているから、『野球道具だけ持って、すぐにこい』って言われて……。でもいざチームに合流しても誰が誰だか分からず、最初は年下の選手にも敬語であいさつしていたよ」と西山氏。トレード直後の“ドタバタ移動”に苦笑いを浮かべるが、「僕自身は正直、チャンスだと思った。当時のパ・リーグの中でも南海は環境的にひどかったし、セ・リーグで野球ができるという楽しみもあった。当時のコーチからも『南海からセ・リーグのチームになんか、なかなか行けへんぞ! 喜んで行って来い!』って言われましたから」と振り返る。

通告1カ月前に知ったトレード

 突然の通告に驚くことが通常だが、中には例外もある。97年のシーズンオフ、盛田幸妃との交換トレードで近鉄から横浜へ移籍した外野手の中根氏は、「今となっては笑い話」と言いながら、トレード通告を受けるまでの水面下での“攻防戦”を振り返る。

 その年の秋、首脳陣から「中根を鍛え直す」と宣言され、中根氏は気合十分に秋季キャンプに参加したという。だが、キャンプ初日の夜だった。練習を終え、夕食も済ませて宿舎に戻ると、しばらくしてチームメイトの一人があわてながら部屋にやって来たという。

「そいつが言うんですよ、『おい! すげぇもん拾った!』と……。何かと思ったら、ポジションごとに選手の名前が書かれていた紙で……、でもセンターのポジションを見たら自分の名前がなくて、ライトにも、レフトにもなかった」。そのA4用紙には、「来季の構想」との題名が付けられており、『中根仁』の名前は枠から外れた余白の部分にあった。そしてそこには、『中根仁、盛田幸妃、トレード成立』と記されていたという。

「驚きですよ、『えっ! 俺、成立してんの!?』って……」。翌日から球団の編成担当者に会うたびに「俺、トレード決まってるんでしょ?」と尋ねたというが、返答をごまかされ続け、そうこうしているうちに“鍛え直された”秋季キャンプも終了。「え? いつ言われんの? もしかしてデマ!?」と思い始めた12月、ようやく「悪いんやけど今から球団事務所に来てくれへんか?」と編成担当者からの電話を受けた。チームメイトが“怪文書”を拾ってから、すでに1カ月が経過していたという。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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