連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

八木かなえが立つ“静寂と歓喜”の競技台 ウエイトリフティング場が一体化する瞬間

C-NAPS編集部

ロンドン、リオデジャネイロと2大会連続で五輪を経験した八木かなえがウエイトリフティング観戦の魅力を語る 【写真:C-NAPS編集部】

 人間の力の限界はどこまでなのか――そんな素朴な疑問に対する解を示してくれる競技がある。それがウエイトリフティング(重量挙げ)だ。どれだけ重いバーベルを持ち上げるかを競うシンプルな競技だが、日本のウエイトリフティング界には、そんなパワー系の競技のイメージを覆す天使がいる。笑顔が印象的な美人アスリート・八木かなえ(ALSOK)だ。

 愛くるしいその表情からは想像できないパワーで、ユニバーシアードや全日本選手権など数々の大会で優勝。“かわいい力持ち”として、日本随一の人気と実力を誇っている。ロンドン、リオデジャネイロと2大会連続で五輪を経験し、3度目の夢舞台を目指す八木に、ウエイトリフティング観戦の魅力を聞いた。

ウエイトリフティングは繊細な技術が凝縮した競技

 ウエイトリフティングには、種目が2種類あります。1つ目が床に置かれたバーベルを一気に頭上に持ち上げる「スナッチ」。2つ目がバーベルを一度肩まで引き上げる「クリーン」(第一動作)後、体を伸ばす反動を使って頭上に持ち上げる「ジャーク」(第二動作)を行う「クリーン&ジャーク」です。

「スナッチ」と「クリーン&ジャーク」のそれぞれに3試技ずつ与えられていて、2種目のベスト重量の合計で順位が決まります。ライバルより1キロでも上の重量を上げれば勝ちという点ではすごく分かりやすい競技なんですが、細かいルールもあります。

 たとえば、「1分の制限時間以内にバーベルを膝より上に持ち上げなかった」「バーベルを持ち上げる時に肘が曲がっていた」などの場合は失敗とみなされるルールがあるんです。とくに「持ち上げたのになぜ失敗?」と疑問に思うシーンは、肘が曲がっていたと判断された場合が多いですね。

 バーベルを一気に上げるので、「スナッチ」はよりパワー重視だと思われがちですが、実は「クリーン&ジャーク」よりも技術が必要となる種目です。バーベルを体の近くに沿わせて持ち上げる際の軌道や頭上に一気に持ち上げる時のバーベルを受けるタイミングが、少しズレてしまうだけでも成功率が下がります。ちょっとしたズレが結果に影響しやすく、繊細な技術を必要とするのもウエイトリフティング観戦のポイントですね。

バーベルを持ち上げるにはもちろんパワーが重要だが、繊細な技術こそが結果を分ける 【Getty Images】

 ウエイトリフティングを観戦する際は、選手と観客が「一体化」する瞬間にぜひ注目してください。選手がバーベルを上げるまでは観客の方が大きな声援を送ってくれるのですが、選手が上げる瞬間は会場がシーンとします。その息を飲むような一瞬の静寂に包まれた緊張感と、成功をした時に起こる割れんばかりの歓声のコントラストをぜひ感じていただきたいです。選手と観客が一体となって歓喜を共にする瞬間は、ウエイトリフティングの魅力だと思います。

 スポーツのなかには、観客が選手の邪魔をしたり、ブーイングしたりする競技もありますよね。ウエイトリフティングは、「プラットフォーム(競技台)に立つ選手を声援で後押ししよう」という敬意を表す雰囲気がある競技だと、私は感じています。たとえ全然知らない選手だったとしても、バーベルを持ち上げた時には自然と拍手が湧き起こります。私自身もそういった選手を尊重する姿勢に、力をもらったことが何度もありましたね。

 だからこそ、逆に自分が「今から上げるぞ!」という時に声援による後押しが少なく、自身のパフォーマンスを発揮しきれなかったときもあるんです。応援の声や拍手が聞こえてきて、そうした会場全体からのリスペクトを感じると、いつも以上に力が湧いて頑張れることもあります。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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