「メダルを取る」ブレない目標に向けて 中田久美監督が語る、東京五輪までの1年
来る東京五輪へ向けて、バレーボール女子日本代表を率いる中田監督に話を聞いた 【坂本清】
「強化に当てられる期間は実質1年ない。確かに時間は少ないですが、私はそんなに悲観的ではなくて。現役の時もそうでしたが、危機感は持っているけれど、焦りはない。ただ、あっという間に来るだろうな、とは思いますね」
東京五輪の開催が決定した2013年は「東京でやるんだ、良かった」と思うだけで、まさかその舞台に自分が監督として立つことなど、微塵(みじん)も考えはしなかった。だが、16年に代表監督に就任。20年に向け、中田監督は堂々とこう言った。
「勝ちにこだわり続けて、2020年に伝説に残るチームをつくりあげたいと思います」
18年の世界選手権を制したセルビア、準優勝のイタリア、今年のネーションズリーグを制した米国、2位のブラジル、3位の中国など世界の強豪は着々と進化を遂げる中、日本は昨年の世界選手権は6位、アジア大会でも4位に終わり、今年のネーションズリーグも7勝8敗の9位と、厳しい状況であることは重々承知している。
でも、だからこそ言う。
「最初に掲げた(メダル獲得という)目標に変わりはないです。そこは絶対。変える必要もないし、そうじゃないと、監督をやると決めた意味がなくなる。だからどんな状況だろうと、そこだけはブレないです」
来る東京五輪へ向けて、中田監督に話を聞いた。(取材日:7月4日)
新戦力の発掘と、それに伴う「相乗効果」
ネーションズリーグでの収穫について「これまで経験のなかった選手を戦力として計算できたのは大きい」と中田監督 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
もちろん勝たなければいけない試合はいくつかありました。そこを勝ちきれなかったのは大きな課題として受け止めていますし、順位を見ると、いくら各国が(8月開催の)五輪予選に照準を合わせるために選手を入れ替えているとはいえ、結局、上位チームは変わりません。
その現状も含めて、この成績が今の日本の力なんだろうな、と。若手を入れたり、いろいろなチャレンジをして、そこでの収穫はもちろんありましたが、メダルを獲るチームはどんな状況でもメダルを獲る。とはいえ、現時点で「これは絶対ダメだ」と諦めるようなすごく大きな開きはないと思っていますし、まだまだ差は詰められると思っています。
――新戦力の発掘も含め、収穫はどのような点だととらえていますか?
関(菜々巳)、芥川(愛加)、渡邊(彩)など、これまで経験のなかった選手を戦力として計算できたのは大きいですね。ミドルブロッカーの2人はそれぞれの長所も発揮して存在感を示したので、ここから加わる荒木(絵里香)にとっても刺激になったと思います。ミドルの層が充実すれば、そこをどう使うかという点でセッターもレベルアップ、スキルアップが求められる。個々の力が計算できただけでなく、チームとしても相乗効果が生まれると思います。
――5月のモントルーバレーマスターズやネーションズリーグ序盤は関選手の出番も多くありましたが、その他の選手も含め、セッターに対してはどんな評価をしていますか?
関はよくやったと思います。ただ、今までは決まっていた、自信にしてきた攻撃が通らなくなった時にどうするかという時に、次の策、引き出しがまだまだ少ない。決まらない、勝てない、という経験をしたことで、自分にどんな技術、要素がこれから必要なのかよく分かったはずです。
決まる、決まらないという結果は別として、関はどんな場面でも違和感なくミドルを使う技術に長けているというのも証明してくれました。今の段階で世界と戦う経験をしたことが、彼女にとっては財産だと思います。組み立ての使い分けを考える、実行する、という壁に当たるだけでも彼女のセッタースキルとしてはプラスになるでしょうし、マイナスになることは何ひとつないと思います。
セッターがスパイカー陣を育てる、使い切れるというのはまだ少ない。本格的にチームをつくっていくのはこれからなので、それぞれがどんな存在感を出せるか。田代(佳奈美)は海外で経験を重ねたことで、高さと対峙(たいじ)するうえでどうすべきか、という面で上積みされた部分があると思いますし、宮下(遥)もバックアタックを含めた攻撃枚数を増やした状況下での展開を課題として取り組んでいます。ここからどうなるか、私も楽しみにしています。
――アウトサイドヒッターは石井(優希)選手が多くの試合出場を重ね、安定してきた印象があります。現時点で全体をどう評価されていますか?
石井は連戦にもかかわらず、よく頑張ってくれていたと思います。大事なところでミスをするのがまだ課題ですが、それを取り返すようなサーブを打ったり、ディグを上げたり、自分でコントロールして計算できる選手になりつつあると思います。
黒後(愛)や古賀(紗理那)もいい時はいいのですが、まだ波がある。特に黒後は火が付くと例えブロックが3枚来ようと「ここは黒後で勝負しろ」と迷わず言える存在である一方、集中力が切れるとガタっと落ちる。アウトサイドはまだまだ手薄なので、黒後に対しても古賀に対しても、もう少し細かな面でアドバイスが必要かなというのは、私が感じる課題ですね。
「粘る=ラリーを続ける」ということではない
「世界との差」を、この1年でどう詰めていくのだろうか 【坂本清】
現に世界では4枚攻撃がスタンダードで、バックアタックは特別な攻撃ではなく、サイドアウト時もブレイク時も、常に入るのが当たり前。守備力を重視するのか、攻撃力を重視するのか。1年後に迫る東京五輪へ向け、日本がクリアすべき大きな課題でもあるが、その試金石となるのが9月に開催されるワールドカップ(W杯)だ。
――世界との差は埋められないものではない、とおっしゃっていました。ここからの1年間でどうその差を埋めていこうと考えていますか?
常に「粘る」と言っていますが、「粘る=ラリーを続ける」ということではないんです。どれだけ拾っても、結局相手のエースに決められてしまっては「これだけ拾っても簡単に決められた」とダメージも残るし、疲労も残ります。私が考える「粘って」というのは、例えばブレイクの場面ならば、まず相手にいいサーブを打って、そこからの相手の攻撃に対して、簡単に落とすのではなく球際を粘る。そして、そこから1本で点数を取りに行くということ。
ラリーを続けさせる粘りではなく、あと一歩、粘って必死で上げることで攻撃につながりやすいパスになるのなら、そこを粘る。ラリーで流れをつくるのではなく、レセプションアタックを確実に決める。そういう面で言えば、Aパスが入った状況でコンビミスが出るのはもったいないし、それはセッターの技術不足であり、アタッカーのスキル不足でもある。ここは1年で確実に詰められるものだと思っています。
レシーブで粘ってラリーを続けてミスをしてくれる相手ならいいですが、世界のトップは絶対そこでミスをしない。それなら、相手が攻撃をする前にAパスを返す。そこで完全に切る技術を高める。Bパス、Cパスでもラリーに持ち込ませない。その粘り、技術力を伸ばすことが必要だと思います。