ソフトボールで再び金メダルを取るために  東京五輪まで1年、宇津木妙子×麗華対談

中島大輔

北京五輪での歓喜から12年、再び大舞台に立つソフトボール日本代表は、東京で栄冠に輝くことができるか 【スポーツナビ】

 東京五輪開幕まで7月24日で残り1年。自国開催で金メダルを期待される競技のひとつが、3大会ぶりに実施されるソフトボールだ。開会式の2日前となる来年7月22日から競技が開始される。北京五輪での歓喜から12年、再び大舞台に立つソフトボール日本代表は、東京で栄冠に輝くことができるか――。

 2008年北京五輪で主力として活躍し、現在日本代表を率いる宇津木麗華監督と、2000年シドニー、2004年アテネの両五輪で日本代表の監督として銀、銅メダルに導いた宇津木妙子氏が、本番までのポイントを語り合った。(取材日:6月10日)

※リンク先は外部サイトの場合があります

金メダルに向けて必要なチームづくりと「人づくり」

金メダルに向けて「人づくり」が大事だと話す麗華(右)。人間力の必要性を説いた 【スポーツナビ】

――まずは麗華さんにおうかがいしますが、東京五輪へのチームづくりは順調に進んでいますか。

麗華 2年半前に初めて、東京五輪に向けて日本代表の合宿を沖縄で行いました。金メダルに向けて五輪までにやらないといけないのは、チームづくりと「人づくり」。人間力がなければ、どんな技術を持っていてもうまく発揮できません。

 東京五輪ではおそらく、観客の90%以上を日本人が占めると思います。選手として周りにいいところを見せたいという気持ちがある一方、逆にプレッシャーが掛かる場所でもあるでしょう。そう考えたとき、五輪までに自分たちがやるべきことはなんだろうかと一つずつ探し、解決しながら準備していきたいですね。自分自身がやるべきことを分かっていれば、持っている能力をより自由に発揮できますから。

妙子 麗華の言う人間力というのは、選手たちの「意識改革」だと思います。代表選手は憧れられる存在で、歩き方やシャツの着方まで、すべて見られています。自分自身をしっかり持ちながら、代表選手としての自覚と行動、言葉、技術的な面でも責任を持たないといけない。そして代表の15人に絶対に入るために、「もっとパワーをつけよう、もっと技術アップをしよう」とやっていかなければいけない。

 麗華には一人一人の選手に対し、「あなたはこういう持ち味があるから、それを徹底的に伸ばしなさい」とそれぞれにテーマをつくらせた上で、全員が力を合わせられるチームをつくってほしいと思います。

――チームの柱になってきそうな選手はいますか?

麗華 チームの柱になってきたと感じるのが、“二刀流"の藤田倭と4番を任せることもある山本優です。特に藤田はピッチャーとバッターの両方でプレーするので、2人分のエネルギーを使わないといけません。でも、今年に入って細くなった感じがします。心技体と言われる中、まずは体づくりが重要ですが、選手たちには意識の低いところがある。女の子だからか、体重を落としたいと考える選手がいるんです。そこはこの1年間で何とか変えていきたいと思っています。

妙子 どちらかと言うと、私はチームづくりに“管理する部分"を入れていました。救われたのは、チームのメインになる選手が期待に応えてくれたこと。強制で「食事を残してはいけない」とやったので、絶対に残せない中、クリーンアップを打つ選手がすごく食べてくれました。でも、今はそういうやり方ができない。ソフトボール選手として「食べること」がどこまで必要か、本人たちの意識にかかってくると思います。夏の暑い中で、ソフトボール代表のために戦うわけですからね。個人のために戦うわけではありません。日の丸をつけた代表選手の背中を、後輩たちが見るわけです。

 麗華が東京五輪でどう感じるかはわかりませんが、私自身は監督として出場したとき、やっぱり五輪のプレッシャーはすごいなと感じました。「自分はまだ、それだけ未熟なのか」と思わされたのが正直なところです。「もう、これだけやったから大丈夫」という自信を持って臨んでも、勝てないこともあった。逆に、準備段階で全然うまくいっていないのに、勝つこともある。ソフトボールほど難しいスポーツはないと思います。だからこそ日頃から、与えられた日数の中で自分自身を高めていかないといけないと思います。

※リンク先は外部サイトの場合があります

選手の良さを生かすために、監督は「ドラマをつくる」

シドニー五輪決勝での敗因を「五輪の魔物」ではなく、「自分のミス」と話す妙子監督 【スポーツナビ】

――麗華さんは監督として初めての五輪になりますが、どう感じていますか。

麗華
 選手のときには、緊張するのは当たり前だと思っていました。逆に緊張しなかったら、集中力は落ちてしまいます。ただし、いざプレーになれば、緊張しませんでした。どうやってこのピッチャーを打つかなど、チームが勝つために監督の戦略や戦術があって、私は一人の主力選手としてどうやって自分の全力を発揮できるか考えていました。それに自分のプレーを世界のいろいろな方に見てもらいたいと思っていたので、緊張して何もできない自分を考えたことがまったくありません。

 監督として臨む五輪は、未知の世界だと今は感じています。2012年に監督として初めて世界選手権で優勝し、世界チャンピオンになった時には、(決勝の米国戦の)延長10回表に勝ち越した後、緊張して立てなかったんです。正座しながらキャッチャーにいろいろな指示をして、「監督として世界一になる瞬間は、こういうことかな」と感じていました。やっぱり人間って、頭より足が弱くなるなと(笑)。あれはいい経験でしたね。

 2014年、監督として2回目の世界選手権ではそういうことはありませんでした。2年前に経験していたので、たぶん体が覚えていた。決勝(米国戦)では初回に3点を取ったので、逆に緊張感がなくなったのかもしれません。そういう経験を踏まえると、大事なのは緊張した中で、自分をどうコントロールするかだと思います。選手が緊張するのは当たり前です。監督は相手ピッチャーの特徴などを伝え、一人一人にいろいろなアドバイスをしながらゲームを進めていくのが役目です。

 要は、いかにドラマをつくっていくかだということですね。一つのドラマには、いろいろなシーンがないといけない。選手それぞれに、「あなたの特徴は足が速い。向こうのサードに対してセーフティーバントをやったら、セーフの可能性が50%ある。ファウルでもいいから、自信を持ってやろう」などとアドバイスしていけば、選手は「自分はこういう仕事をすれば、いいゲームができる」と能力を生かすことができる。そうやってドラマをつくっていければと思います。

――勝利へのシナリオがあるわけですね。

麗華 はい、そういうチーム力の高め方は、妙子さんから勉強してきました。残り1年で自分自身も監督としていろいろな経験をしながら、選手にも経験させて、緊張するような場面で緊張させないようにしていこうと思っています。

妙子 結局、指導者に求められるのは、試合の場でどう戦うか。シドニーの決勝(米国戦)で麗華がホームランを打った瞬間、「これ、勝てるな」と私が舞い上がっちゃって、ピッチャー交代をできませんでした。それは選手以上に、自分が緊張していたからです。ピッチャー交代を早くしていたら、あの試合は絶対に1対0で勝っていました。あの試合は「五輪に“魔物"がいた」わけではなく、ピッチャー交代をできなかった私のミスがあった。麗華はそういうことも見てきています。「天の利、地の利、人の利」とよく言うけれど、五輪では全部を味方にしないと勝てないということです。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント