コパ・アメリカ2019連載

攻撃の手数と守備の共通理解に欠けた日本 エクアドル戦で再認識した課題

宇都宮徹壱

アジア勢が「お客さん」ではないことを示すためにも

日本、エクアドル共に勝ち点3を積み上げれば、ノックアウトステージにすべり込むことができる状況だった 【写真:ロイター/アフロ】

「パラグアイとベネズエラの監督が、コパ・アメリカにアジアの国が出場することを批判していた。それについてはどう思うか?」
「たとえばブラジルがアジアカップに出場するとしたら、どう思うか?」

 6月24日(現地時間、以下同)にベロオリゾンテで行われる、コパ・アメリカのグループステージ第3戦、日本対エクアドル。その前日会見で日本代表の森保一監督に対し、南米のメディアからこのような質問が相次いだ。ここでいう「批判」は、きちんと腑分けする必要がある。パラグアイ代表のエドゥアルド・ベリッソ監督は主催者であるCONMEBOL(南米サッカー連盟)に向けたものであったのに対し、ベネズエラ代表のラファエル・ドゥダメル監督は「U−23の選手を多く連れてきて大会を軽視している」日本の姿勢に苦言を呈している。

 もちろん、今大会に参加している代表チームのすべての監督が、日本とカタールの参加に否定的というわけではない。3月に韓国と日本に遠征したボリビア代表のエドゥアルド・ビジェガス監督は「彼らのダイナミックさに驚かされた」とポジティブな感想を述べているし、エクアドル代表のエルナン・ダリオ・ゴメス監督も「(アジア勢の参加は)いいことだと思う。南米には10チームしかなく、内輪だけで試合をしていても仕方ない」というコメントを残している。ようするに同じ南米でも、さまざまな考え方があるということだ。

 日本がベストでないメンバーで今大会に臨んでいる理由については、すでにあちこちで書かれていることなので割愛する。森保監督が言うところの「最強ではないが監督として考えられるベストの選手」で今大会に挑んでいる日本代表。コパ・アメリカのグループステージを突破することは、自分たちの経験値をさらに高めるだけでなく、アジア勢が単なる「お客さん」ではないことを南米諸国に示すという意味でも大きな意味を持つ。

 あらためて、グループステージ突破の条件を整理しておこう。2試合を終えて、3位の日本は勝ち点1の得失点差−4、4位のエクアドルは勝ち点0の−5。他グループの3位と比べると、ペルーが勝ち点4の得失点差−3、パラグアイが勝ち点2の得失点差−1となっている。つまり日本もエクアドルも、勝ち点3を積み重ねれば、ノックアウトステージへの最後の1枠に滑り込むことができるのである。これほど分かりやすい状況はない。とにかく、目の前の相手に勝つしかない。それだけだ。

VARで先制するもオフサイドで決勝ゴールが幻に

中島のゴールで先制した日本だったが、同点を許し1−1で試合終了。グループステージ敗退に終わった 【写真:ロイター/アフロ】

 この試合でも、先に掲げた≪日本代表の7つの課題≫について検証しながら見ていくことにしよう。エクアドル戦で注目したいのは4番目の「攻撃面でのバリエーションは増えているか?」、そして5番目の「守備面での共通理解は進んでいるか?」である。

≪日本代表の7つの課題≫
(1)各ポジションの世代交代は進んでいるか?
(2)チーム内の競争は健全に働いているか?
(3)監督の考えるコンセプトは浸透しているか?
(4)攻撃面でのバリエーションは増えているか?
(5)守備面での共通理解は進んでいるか?
(6)監督の采配や選手交代は的確か?
(7)試合状況や実力差に応じた戦いができているか?
 エクアドルのFIFA(国際サッカー連盟)ランキング(6月14日発表時点)は60位。日本の28位よりも下だ。もちろん油断ならない相手ではあるが、チリやウルグアイよりも強くはない。グループ突破が懸かる真剣勝負で、日本が攻守でどれだけ優位に立てるかを確認する絶好の機会といえよう。

 会場のエスタディオ・ミネイロンのピッチに立つ、日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から岩田智輝、植田直通、冨安健洋、杉岡大暉。中盤はボランチに柴崎岳と板倉滉、右に三好康児、左に中島翔哉、トップ下に久保建英。そしてワントップに岡崎慎司。森保監督が「ウルグアイ戦がベース」と前日に語ったとおりの布陣である。唯一の変更は、安部裕葵の代わりに久保が入ったこと。ウルグアイ戦では7分のみの出場だったので、久保はこの中で最もフレッシュな状態だ。

 先制したのは日本だった。前半15分、中島からのスルーパスを受けた岡崎がボールに触る直前、エクアドルのGKアレクサンデル・ドミンゲスが飛び出してクリア。しかしそのボールを中島が拾い、無人のゴールにループ気味のシュートを放つ。この時、主審は(岡崎の)オフサイドのジェスチャーを見せたものの、その後VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定によって中島のゴールは認められた。しかし35分、ペナルティーエリア付近でのロマーリオ・イバーラのシュートに対し、川島がセーブしたところをアンヘル・メナに決められてしまう。前半は1−1で終了。

 ドローのままでは、日本もエクアドルもノックアウトステージには進めない。後半はさらにアグレッシブな展開が予想されたが、ハーフタイムでエクアドルが中盤の構成を変えてくると、とたんにゲームは膠着(こうちゃく)状態となる。これを打開すべく、日本ベンチは後半21分と37分に動く。まず岡崎を下げてスピードのある上田綺世、さらに疲れの見える三好に代えて安部を投入。これで前線にパスがスムーズに回ると期待したが、ことごとくエクアドルの網に引っかかり、もどかしいことこの上ない。

 ジリジリした展開が続く中、後半43分に森保監督は最後のカードを切る。板倉OUTで前田大然IN。前田と上田が2トップを組む形になった。その直後、久保からのスルーパスに抜け出した前田がシュート。GKドミンゲスがはじいたボールに上田が反応するも、シュートは大きく枠を外れる。さらに45+4分、久保のシュートがネットを揺らしたかに見えたが、これはオフサイドの判定。試合はそのまま1−1で終了し、ブラジルが待つポルトアレグレの準々決勝には、日本でもエクアドルでもなく、パラグアイが赴くこととなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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