“清宮キラー”櫻井周斗はDeNA希望の星 いつか一軍で同級生スターとの再戦を

日比野恭三

「2度とないように」悔しさを成長の糧に

ファームで知ったプロの厳しさ。それは2年目の飛躍にきっと結びつくだろう 【(C)YDB】

 櫻井の胸に痛恨の記憶として刻まれている試合がある。同年6月26日、イースタン・リーグの東北楽天戦だ。場所は横浜スタジアムで、その夜、同じ球場で一軍のチームが試合をする。いわゆる親子ゲームの日だ。

「一軍にアピールできる絶好の機会」と張り切っていた櫻井は7回から登板し、2イニングを投げた。しかし、結果は散々だった。

「実質3本ホームランを打たれたんです。場外とバックスクリーンと。あと右中間の当たりはフェンスの上のほうに当たって記録は二塁打だったんですけど、ぼくにしてみればホームランと同じ。いままでにないような打たれ方というか、ショックを受けるような当たりを打たれた。悔しかったので、打たれた時に投げたボールも鮮明に覚えています。あそこで出はなをくじかれたような感じでした」

 屈辱の体験を成長への糧とした。「『2度とないように』と肝に銘じてやってきた」と櫻井は言う。

 ファームで過ごした1年目の防御率は7.03。それはもちろん苦労の痕跡であると同時に、高校を卒業したばかりの若者を高みへ導く足場でもある。

「結果はまったく良くないですし、試合で結果を残し続けなければいけない難しさや、体力的な問題を感じた1年でした。その厳しさを知ったからこそ、もっといろいろなことをやらなきゃいけないと感じたし、オフからの練習への取り組み方も変わっていったなと思います」

自身は「投げっぷりのいいピッチャー」

「アウトを積み重ねていければいい」。19歳の希望の星がDeNAの未来を担う 【(C)YDB】

 収穫の一つを挙げるなら、球種が大幅に増えたことだろう。チェンジアップ、カットボール、ツーシームをプロ入り後に習得してきたという。

「まだ、いちばんの武器はスライダーだと思っています。でも、初登板の時もチェンジアップで三振を取れましたし、変化球が増えて、それを自信を持って投げられていることで、まっすぐやスライダーにもいい影響が出ている」

 櫻井周斗はどんなピッチャーか。自己紹介をするならどう表現するのか。そんな質問をぶつけてみると、端的に答えた。

「投げっぷりのいいピッチャー。そうとしか言えないですね」

 思いきりよく左腕を振り、150キロに迫るストレートと、スライダーを筆頭とする多彩な変化球を投げ込んでくる。ただそれだけで、十分に明るい未来を想像させてくれるピッチャーだ。

 6月18日から、DeNAは日本ハムとの3連戦に臨む。高校時代の実績から“清宮キラー”と呼ばれることも多い櫻井だが、13日に出場選手登録を抹消された。注目の対戦はお預けとなったが、自分の可能性に気づかせてくれた強打者と、プロで、一軍で、再び対戦できる日を静かに待つ。

「清宮や安田というバッターを抑えたからこそ自信になったし、ピッチャーとしてプロ入りするという意識も湧いてきたので、ぼくは感謝しています。今後、対戦できたとしても、ぼくがやることは変わらないので。バッターと勝負して、アウトを積み重ねていければいいかなと思います」

 三振も狙わない。抑えれば何でもいい。それでチームがいい方向に行くのなら――。

 落ち着いた語りに、思わず「大人ですね」と筆者がこぼすと、櫻井は微笑を浮かべて言った。

「まだ、19歳です」

 そのとおり。輝き始めたばかりの希望の星だ。

(取材協力:横浜DeNAベイスターズ、記録は6月17日終了時点)

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著者プロフィール

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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