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新井貴浩・ただありがとう
新井さんが3年目で思い知ったプロの厳しさ
「休むな!」金本さんの言葉と遅かった後悔

 あれは確かゴールデンウイークの試合。プレー中に左アキレス腱が痛み始めた。当時、一軍の寮は広島市西区三篠にあり、僕はそこの2階に住んでいた。

 5月4日の朝。起きると、痛みがひどくなっており、階段を降りるのにも苦労した。足を引きずりながら、どうにか市民球場にたどり着くと、金本さんに声を掛けられた。


「どうしたんや、その足は」


「アキレス腱が痛くて歩けないです」


「今日の試合はどうするんや」


「出られないです。僕が出ることで、迷惑をかけてもいけないので」


 すると、金本さんは強い口調で言った。


「オマエな、足が折れているわけじゃないやろ? 試合になったら動けるようになる。だから、絶対に出ろ。休むな!」


「いや、ほんと無理です……」


「知らんぞ。代わりに出たヤツが活躍したら、オマエは出られんようになるで」


 当日のヤクルト戦。金本さんの忠告はありがたかったが、痛みで満足にプレーできるとはとても思えず、僕は山本監督やトレーナーと相談して休むことにした。すると、僕に代わって七番・サードで先発したエディ・ディアスが同点の6回に勝ち越し2ランを打った。6日の同カードでは、僕も7回に代打の代打で意地の同点3ランを放ったが、ディアスはその上を行き、何と3本塁打6打点の大活躍だった。以来、6月中旬までほぼ途中出場を余儀なくされた。


「休むんじゃなかった……」


 後悔しても遅い。


「言った通りになったやろ。試合に出てさえいれば、座を追われることはないのに」


 うなだれる僕に金本さんは怒った。


「相手には絶対、スキを見せたらダメや。チャンスを与えるのは、それだけ怖いことなんで。あれだけ言ってやったのに」


 金本さん自身も、若い頃はケガが多く、チャンスを何度もつかみ損なったようだ。そうした苦い経験があるから、自分の座が奪われかねないスキは見せない。ライバルにはチャンスを与えない。休むことの怖さを知っていたから、連続フルイニング出場1492試合の世界記録を達成できたのだと思う。


「練習で2か3ができたら、試合では7か8ができる。アドレナリンが出るから体が勝手に動くんや。重症じゃない限りできる」


 金本さんは後日、自身の経験談としてそんな話をしてくれた。実際にアキレス腱痛は軽症で、後年の僕なら間違いなく試合に出ただろう。当時の僕は甘かった。プロの厳しさを思い知らされる初めての経験だった。


 この年は124試合に出場し、打率.284、18本塁打、56打点。数字では順調に成績が伸びているように見えるが、スタメン出場が74試合しかない上にチャンスに弱く、内容は全く満足できなかった。


(文:新井貴浩)


※本記事は書籍『ただ、ありがとう 「すべての出会いに感謝します」』(ベースボール・マガジン社)からの転載です。掲載内容は発行日(2019年4月3日)当時のものです。

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