コパ・アメリカ2019連載

20年ぶりに得た南米での真剣勝負の場 大会を「力試し」で終わらせないために

宇都宮徹壱

グループ最強のウルグアイ戦に求めたいこと

グループ最強を迎え撃つ日本には「弱者のサッカー」に徹することを求めたい 【写真:ロイター/アフロ】

「チリとの攻撃の差があったことは認めないといけないと思います。しかしながら選手たちは、前回、前々回のコパ・アメリカの覇者に臆することなく、勇気をもって戦ってくれたと思いますし、いくつかのチャンスを作って十分得点するだけの攻撃を見せてくれた。そして負けはしましたが、最後の最後まで、1秒たりとも集中を切らさずに戦い抜いたことを、次の試合につなげたいと思っています」

 試合後の会見に臨んだ森保監督の言葉は、非常に前向きな表現で満ちていたが、どこか無理があるように感じられた。少なくとも「1秒たりとも集中を切らさずに戦い抜いた」という表現は、4失点した試合にふさわしいとは思えない。それは攻撃面についても同様で「いくつかのチャンスを作って十分得点するだけの攻撃を見せてくれた」と言っても、ノーゴールに終わったという事実に変わりはない。それは当の森保監督自身が、一番よく分かっているはずだ。

 勝敗を度外視すれば、個々の選手のプレーに見るべきものはあった。最も存在感を示していたのは、この日キャプテンマークを付けていた柴崎であろう。当人いわく「かなりぎりぎりの戦いになることは分かっていましたし、個人的にはチームを助けたかった」。事もなげに語っているが、この試合では前線に最もチャンスを供給し、守備面でも貢献度が高かった。相手2人をドリブルで抜き去った久保、そして(ゴールには至らなかったものの)大学生の上田もまた、ストライカーとしての片鱗を十分に感じさせるプレーを見せていた。

 とはいえ、日本代表が戦っているのは国内でのキリンチャレンジカップではなく、南米の強豪が命がけでしのぎを削るコパ・アメリカである。準備不足や戦力不足を承知で参加している以上、それを敗戦の言い訳にするべきではないし、単なる「力試し」で大会を終えるのはあまりにも失礼な話である。20年ぶりに出場するコパ・アメリカでは、せめて前回の戦績(1分け2敗、得失点差−5)を下回る成績だけは回避してほしいところだ。

 初戦に大敗した日本は、中2日でグループ最強のウルグアイと対戦する。ここで勝ち点1以上を確保しなければ、3試合で帰国することはほぼ決定。そうならないためにも、次のウルグアイ戦は「弱者のサッカーに徹すること」を森保監督と選手たちには求めたい。現時点における日本の立ち位置と、グループ内での力関係ははっきりした。ならば「日本らしさがどこまで通用するか」ではなく、この機会に「リアリスティックに勝ち点1をもぎ取ること」を追求したほうが、よほど選手の成長に寄与するのではないだろうか。いずれにせよ、20年ぶりに得た南米での真剣勝負の場なのだ。ゆめゆめ、無駄にすべきではない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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