コパ・アメリカ2019連載

20年ぶりに得た南米での真剣勝負の場 大会を「力試し」で終わらせないために

宇都宮徹壱

日本が初戦で対戦するチリについて

北海道地震により中止になったチリとの親善試合。9カ月が経ち、対戦の機会が訪れた 【写真:ロイター/アフロ】

 6月17日(現地時間)、ついに日本代表のコパ・アメリカの初戦当日となった。前日、同じくアジアから招待されているカタールは、パラグアイに2−2のドロー。3年後に自国開催のワールドカップ(W杯)を控えるカタールにとって、今大会の参加目的は極めて明確だ。アジアカップ優勝メンバーの多くが再集結し、入念に準備をした上で得た勝ち点1は、決して番狂わせではない。共にアジアカップ決勝を戦った日本としては、いささかの勇気をもらえる一方で、コパ・アメリカの先輩格としての若干のプレッシャーも掛かる。

 そんな日本の初戦の相手は、今大会2連覇中のチリ。「連覇」といっても、前回大会はコパ・アメリカ百周年を記念して16年に開催され、さらにその前は15年の自国開催である。アルトゥーロ・ビダルやアレクシス・サンチェスといった現在の主力たちが、まさに脂が乗り切った2年間での連覇であり、3年後の今はピークが過ぎた感は否めない。実際、前回のW杯予選ではプレーオフ圏外の6位に終わり、3大会連続の本大会出場はならず。たとえ「南米王者」であっても、W杯出場が保証されないのが南米の厳しさである。

 対戦相手と同じくらい、若き日本代表にとって脅威となりそうなのが、試合会場であるモルンビースタジアムの雰囲気。試合当日、サンパウロの街中を歩いていると、あちこちで赤いユニホームのチリサポーターたちを目にした。ふと思い出すのが、2年前にロシアで開催されたコンフェデレーションズカップ。この時のチリは、南米予選で低調な試合を続けていたが、それだけにコンフェデに懸けるサポーターの士気は異様に高かった。ドイツとの決勝は0−1で敗れたが、彼らはサンクトペテルブルクのスタンドの一角を赤く染め、声援とブーイングでホーム状態を作り出していたのである。

 チリといえばもうひとつ、日本のサッカーファンとして忘れてならないことがある。昨年9月7日に予定されていた親善試合が、北海道地震の影響で中止になったことだ。本来ならばこの試合が、森保一監督率いる日本代表の初陣となるはずだった。指揮官自身、前日会見では「今回、こうして対戦できることをうれしく感じますし、この試合から自分たちの立ち位置を知る機会になればと思います」と語っている。あれから9カ月を経て、コパ・アメリカで実現したチリとの対戦。格別の思いでいるのは、森保監督も同様であろう。

フレッシュな顔ぶれで「南米王者」に挑んだ日本

スタメン11人中、6人が初キャップとなった日本代表。フレッシュな顔ぶれで「南米王者」に挑んだ 【写真:ロイター/アフロ】

 モルンビーのスタンドは、予想に反してガラガラ。それでもチリのサポーターの声量には、一定以上の迫力が感じられた。もうひとつ予想外だったのが、日本が4バックでこの試合に臨んだことだ。GK大迫敬介。DFは右から原輝綺、植田直通、冨安健洋、杉岡大暉。中盤は、ボランチにキャプテンの柴崎岳と中山雄太、右に前田大然、左に中島翔哉、トップ下に久保建英。そしてワントップは上田綺世。スタメン11人のうち、大迫、杉岡、原、中山、上田、そして前田の6人がフル代表の初キャップというフレッシュな顔ぶれである。

 前半の日本は序盤から果敢にチリに挑み、相手の圧力に屈することなく、30分を過ぎても0−0のきっ抗した展開が続いた。しかし30分以降は徐々にチリが攻勢を強め、41分にはCKのチャンスから、エリック・プルガルのヘディングシュートで先制する。日本も44分、相手のパスミスを柴崎が拾ってスルーパスを送ると、これに前線の上田が反応。GKガブリエル・アリアスと1対1の場面を迎えるも、放ったシュートはわずかに枠を外れた。前半はチリの1点リードで終了する。

 後半に入ると、チリはさらにギアを上げてきた。そして後半9分には追加点。マウリシオ・イスラの右からの折り返しに、エドゥアルド・バルガスが右足ダイレクトでシュートを放ち、弾道は冨安の伸ばした足に当たってゴールインとなった。しかし、ここで意気消沈するわけにはいかない。12分には柴崎のクロスから、ペナルティーエリア内に抜け出した上田が反応するも、またしてもシュートは枠の外。20分には、久保が自らドリブルから切れ込んでゴールを狙うが、こちらはサイドネットだった。

 その後も日本は反撃の糸口を模索するも、チリの要所を締めた的確な守りを崩せず。森保監督は、相次いで攻撃の選手を交代させた。後半21分には前田と中島を下げて、三好康児と安部裕葵。さらに34分には4回の決定機に絡んだ上田に代えて、岡崎慎司を投入する。とはいえ、一連の交代でどれだけ攻撃が活性化したかは、いささか疑問だ。本調子でなかった中山を下げる、あるいは多くの選手になじみのある3バックへのシステム変更を考えてもよかったのかもしれない。

 結局、ベンチワークの効果が得られないまま、日本は後半37分と38分に立て続けに失点を喫してしまう。チリの3点目は、日本の最終ラインの背後を突く浮き玉のパスから、チャルレス・アランギスが素早いターンで中山のマークを外し、折り返したところをサンチェスがダイビングヘッド。1分後の4点目は、サンチェスからのロングパスに反応したパルガスが、大迫の飛び出しを見極めながら巧みなループでネットを揺らした。これで勝負あり。日本は南米王者に0−4の大差で屈することとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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