上田瑠偉くんが好き過ぎて山を走っちゃった追っかけ美ジョガー

【みんアス】

真剣にランニングに取り組む美ジョガーにフォーカスを当てた『ビューティーランナーズ』
街を走る女性ランナーのインタビューから彼女たちのランニングを通じた人生観に触れます。
(編集部注※2018年6月25日に公開された記事を再編集したものです。)
 筆者はマラソン初心者である。

 先日家の近所を走っていたら、うっかり目標物を見落としてしまいいつもより長い距離を走ってしまうことになった。

 辛かった……!

 ランナーのみなさんから見たらきっとダッシュ出来るぐらいの短距離ではあるが辛いものは辛い。

 やはり42.195kmを走るなんてマトモじゃないよな、と今でも思っている。

 が、

 今回のビューティーさんが走っているのは“山”である。なぜ彼女はあえてキツい“山”を選んだのか……。

 前回の榎本さん同様、シューズ試し履き会の会場で発見したビューティーさんペア。遠目から見てもわかるおしゃれさんで、目にパッと飛び込んでくる鮮やかカラーのTシャツを着た小柄なお二人を見つけて声をかけた。

 今回ご紹介するのは下島清香さん。
 四十代の未婚女性。

 ランニング歴は一年と言うが、内容がとにかく濃い。

 きっかけは去年の上半期に遡る。

「10月に大人の運動会みたいな感じで『スパルタンレース』に出ることになったんです。出るからには走らなければならないな、と。走ったことがなかったので『10km走れるようにまずなりなさい』って言われました。それで走り始めたら『あ、できる。走るのなんか楽しいじゃん』って」

 そして去年の8月には『小松菜マラソン』でハーフを完走。10月に晴れて『スパルタンレース』に出場を果たす。

 ものすごく軽〜い感じで『出ました!』と話し進めていく下島さんだが……

 いやいや、スパルタンってめちゃくちゃ大変ですよね?!

「匍匐前進やりましたよ〜。壁も上りましたし、バーピーも300回くらいやりました。大変なんですよ泥だらけになるし。だからもういいかな。スパルタンは引退です(笑)」

 危険だ。

 下島さんと話しているとスパルタンさえ“割とサクッとできちゃうかも”と錯覚してしまう。

 ケラケラと笑いながらサラリと話すので、聞いていて『過酷』や『極限状態』などという言葉が微塵も頭をよぎらない。

 既に心地の良い彼女のペースにすっかり乗っかってしまう。

 初めてフルマラソンを走ったのは去年の12月。『羽賀』を走った。その後が『かすみがうら』。

 フルマラソンはその二回だけと言うが記録はなんと4時間45分と好タイム!

「かすみがうらは30km越えた辺りのれんこん畑の風景、めちゃめちゃ切なかったです。どこまで走っても景色が変わらなくて、ずっとれんこんで! もう、絶対やらないってあそこで心強く思いました(笑)」

「のどかだな〜」なんて思う余裕など全くなかったそうだ。

「あぁきっとこのまま永遠に走るんだ……って。景色が全っ然変わらない。さっきもここ来たけど、みたいな。蛙がめっちゃ鳴いてるの! もう早く終われ〜!! って思いながら走ったらあのタイムが出ました(笑)」

 改めて感想を聞いてみると……

「れんこんってこうやって作るんだ、ってすごい思いました。今度はマラソンじゃなくてれんこんの収穫に来ようと思います」

 ん(笑)?

 まあ、れんこんがそれほど印象に残ったってことでいいでしょう。
 トレイルランナーになりたい

「私たちはトレイルランナーになりたくて今練習しています。トレイルランナーになりたいから、今走っているんです!」

 明らかに今までとは熱量が違う口調で話が始まる。

 平地でもキツいと思っている私には信じられない山を走る競技“トレイルランニング”。

 直近の目標は『モントレイル戸隠マウンテントレイル』だそう。

「戸隠は初心者用トレイルって上田瑠偉くんが言ってたから」

 上田瑠偉くん……。

 言わずと知れたトレイルランニング界のプリンスだ。

「トレイルを始めたのは完全に上田瑠偉くんがきっかけです。『かっこいい。山走っている人なんだ、私も山走ろう』って」

 またもサラッと言い放つ。

 それにしてもキツいはずの山道。彼女の背中をそこまで押した上田選手のどんな所に惹かれたのかを問うと即答だった。

「顔!」

 言い切ったー!!!

 スパッと言い切ったー!!!

「かっこいい。そしてかわいい! 先日渋谷であった囲む会にも参加したんですけど、本っ当にかっこよかった!!」

 興奮度MAXである。

 恥ずかしながら上田選手を知らなかった筆者も促され検索。

 整った顔立ち、引き締まった身体、少しヤンチャそうな表情と笑った時のあどけなさのギャップ。

 確かに写真だけでもとても魅力的な選手だ。

「でも好きにならないでくださいよ!」

 ……かしこまりました(笑)。

「走るモチベーション? 上田瑠偉くんです。完っ全に瑠偉くん。本当に追っかけです。上田瑠偉くんが戸隠出るって言っていたので一緒に出るんです。理由はそれだけです!」

 これが本当の追っかけか……(なにせ山道を文字通り追っかけて走るんですもんね)

 この取材だけで何度“上田瑠偉くん”という名前を聞き、そしてこの記事に何度“上田瑠偉くん”と書いただろう。かっこいい。かわいい。そして何より実力者。

 私の脳にも完全にインプットされてしまった。

 平地なら『東京マラソン』を走ってみたいと言う下島さん。

 今後の目標は“五年後も走れたらいいなぁとは思っているんですけどね”と前置きしつつ、

「足痛めたりするんですよ〜。毎回一週間使い物にならないとか、筋肉痛とか(笑)」

 それでも走り続ける理由とは何なのだろう。

【みんアス】

「私、忘れちゃうんです。嫌なこと忘れちゃう。走ってみて『やっぱり痛かったね』って。でもまた忘れちゃってうっかりエントリーをクリックしちゃう。それで『あ〜失敗した〜また走らなきゃ〜』って。そして走って更に『やめときゃよかった〜』って。それを繰り返してる。またすぐ忘れちゃう。あー面白そう、ポチ、あ! やっちゃった……って。通販みたいに(笑)」

 下島さんと話しているとまるでマンガを読んでいるように絵が浮かぶ。本当に面白い方だなぁ。

 ランニングを通して“結構私、辛いの耐えられるな、なんでもできそうだな、耐えられそうだな“と思えるようになったという下島さん。

「死なないしね。そんな簡単に死なないなって言うのがわかったかな」

 またもサラッとすごいことを言ってのけた。

 トレイルの魅力は登りきった時に見える景色で感じる“めちゃくちゃ頑張ったな”という達成感と下りの爽快感だとか。

 苦しいことの後に楽しいことが待ってると思うと出来る。頑張れる、と。下りは登りより技術がいるのだが彼女は下りがめっちゃくちゃ速いらしい。

「ブレーキきかない感じがめっちゃめちゃ楽しい!!」

 共に走った水上さん(次回登場!)は“毎回すごい速いなって思いつつ、いつか転げ落ちて死ぬんじゃないかって心配になる”と引き気味な程だ。

 ちなみに登りは5倍くらい遅いらしい(本人談)。

 でも大体のトレイルランナーは下りが怖いという中、下りが楽しくて速いというのは正にトレイルの才能。トレイルに出会うべくして出会った方なのかもしれない。

 大きな目標はハセツネCUP。

 ハセツネ30Kを経てメインの71.5kmを走りきるのが最終的な目標だ。

「それ走りきったらやめます」

 そう言って笑う。

 走るのは苦しいって思ったら終わり。楽しい時に走ればいいと言うのがどうやら彼女の本当のゴールらしい。

 人はポジティブな感情を持てばメンタルだけでなく、フィジカルさえもポジティブになると聞いたことがある。

 彼女にだって当然日常に辛いことや大変なことはあるはず。

 現に『やめときゃよかった〜』とレースですら後悔しているのだから。

 しかし彼女は辞めない。いつも楽しそうにも見える。

 それはなぜか?

 きっと山を登り切った景色が日常の辛ささを吹き飛ばすくらいの景色だからなんだろう。

 言葉にこそ具体的には出さなかったが、彼女が登り切った景色を話す表情が一番素敵だったから。

 それを知っている、いやそれを感じられる前向きさがあるから明るくいられるのだろう。

 “これ終わったらやめる!”と言いながら、きっとハセツネを完走した後もまたうっかりポチッてしまうのだろうか。

 楽し過ぎて、面白過ぎてお腹を抱えて笑った今回の取材。

 彼女の“その後”が今から楽しみでならない。


※本記事は「みんアス〜みんながアスリート」で公開された『ビューティーランナーズ Vol.18』を再編集したものです。
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著者プロフィール

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