告知不足に不可解な会場変更…解決策は?  新生Vリーグを振り返る<課題編>

田中夕子

地域に根付いたクラブが一石を投じる存在に

堺や岡山、今季からV1に昇格したVC長野など、地域に根付いたクラブの存在は光になり得る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 山積みの課題ばかりが先行するが、明るい話題もある。新たなリーグの船出、そしてこれから続くリーグ発展の未来に向け、一石を投じる存在となり得るのが地域に根付いたクラブチームの存在だ。

 V1リーグで優勝経験もある堺ブレイザーズ、地元企業やファンから絶大な支援を受ける岡山シーガルズ。トップカテゴリーでクラブとして活動してきた両チームに加え、今季からV1に昇格したVC長野トライデンツ、V2リーグで優勝した女子のヴィクトリーナ姫路や男子V3リーグ優勝のヴォレアス北海道、準優勝のヴィアティン三重など、単一の大企業母体ではなく、複数スポンサーの支援で成り立つクラブチームは、支援を打ち切られれば選手やスタッフの報酬は得られない。

 そのために結果を残すことはもちろんだが、認知度を高めるために地域活動にも積極的に参加し、スポンサーやメディア露出を増やすための地道な活動を積極的に行うことで、集客力アップにつなげ、人気獲得に努めてきた。JTマーヴェラスでプレーし、北京五輪にも出場したヴィクトリーナ姫路の河合由貴はこう言う。

「今まではすごく人任せだったなと思います。もっと選手が積極的に頑張らないとダメだと思うんです。たとえば試合告知のチラシをつけたティッシュを1つ配るにも、背の高い選手が配れば『何の選手だろう』と足を止めてくれる。誰かがやってくれるからバレーだけやっていればいい、ではない。姫路に来て、自分たちが動くことの大切さを実感しました」

 姫路と同様に、プロチームとして地域に根差した活動を積極的に行い、河合も「今一番興味がある」と言うのがヴォレアス北海道だ。クラウドファンディングで資金を集めシャトルバスを運行、グッズやドリンク券がつくサービスを行い、会場での飲食やグッズ購入にいち早くチャージ型のプリペイドカードを取り入れた。

 北海道内での認知度を高めるために小学校を回ったり、地元住民に向けた公開練習を行うなど地域との連携も強く、イベントにも趣向を凝らした。ホームゲームの集客力はV1リーグも上回るほど。オールスターにも出場した家近滉一は「発足時から“われわれはプロだ”と活動してきたので、新リーグも違和感がなかった」と振り返り、さらに取り組むべき課題を挙げる。

「地域に応援してもらうこと、応援に対するお礼の気持ちを表現するために必要なことはたくさんあります。練習を見ていただくことも、試合でも勝つことはもちろんですが、大切なのはいかにクラブや選手として価値を上げられるか。いろいろな方がアイデアを出してくれて、びっくりするようなことが実現しているけれど、まだそれはバレー界では、という話なので。人任せにせず、この選手を見に行こう、と思ってもらえるようにしたい。たとえばSNSでもいいから、選手発信でどれだけ喜んでもらえるか。他競技や海外から学ぶことがたくさんあると思うので、情報収集することも大事だと思っています」

選手自ら動画編集を行い、YouTubeを活用

 選手発信という面で、YouTubeを活用するのがヴィアティン三重だ。ホームゲーム時に流れる映像だけでなく、チームのオリジナルチャンネルを作り、日々の練習や選手同士の座談会など工夫を凝らした映像を流し、知名度を高めた。製作するのは、専門スタッフではなく選手自身。映像編集も担当し、チームの司令塔を務めるセッターの野垣昂大は発信し続けることの重要性と、その成果をこう説く。

「Vリーグのイベントは、内々に向けて、Vリーグのファンの方だけが喜ぶようなイベントしかやっていない印象があったので、Vリーグを知らない人たちにも知ってもらえるようにならないとVリーグも盛り上がらないのではないか、と思ったのがきっかけです。僕らがプレーするV2、V3の試合はDAZN(ダゾーン)やテレビで中継されるわけではありませんし、実力的にもまだまだV1のチームや選手の眼中にもないと思いますが、どんどん攻めて、Vリーグを盛り上げるために三重から変えていきたいです」

 プロリーグではなく、トップカテゴリーのほとんどが異なる企業である以上、それぞれの方針があり事情もあるのは確かだ。だが、自らがバレーボール選手であり続けるために、会社任せ、人任せにするのではなく自分が動く、というクラブチームの姿勢は企業チームにとっても学ぶべき要素は多くあるはずだ。

 真の変革、改革を求めるならば、怖いのは変わることではない。恐れるべきは、何もせず、変わらないこと。昔はよかった、前はよかった、と振り返るのではなく、未来を見据え何ができるか。新リーグ元年にあらわになった課題を、マイナスのまま終わらせず、プラスに変えるために何ができるか。Vリーグ機構、チーム、選手、メディア、ファン。それぞれに、問いかけられているのではないだろうか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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